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草原の椅子〈上〉

草原の椅子〈上〉
By 宮本 輝

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  • 発売日: 1999-05
  • 版型: 単行本
  • 321 ページ

エディターレビュー

出版社/著者からの内容紹介
五十歳になり、さらに満たされぬ人生への思いを募らせる憲太郎と、大不況に悪戦苦闘する経営者・富樫。人の使命とは? 答えを求めるふたりが始めた人生という鮮やかな大冒険。

内容(「BOOK」データベースより)
かつて出会った古老の言葉が甦る。「あなたの瞳には、使命の星がある」。だが、五十歳を迎え、憲太郎はいまだ「天命」を知らない―。不況のただなかで苦闘する経営者。母に虐待された少年。離婚後の新たな人生を模索する女性。満たされぬ心を抱いた人間たちが、憲太郎と不思議な縁で結ばれていく。日本への絶望が募るなか、憲太郎は人生を変える旅に皆を誘う。シルクロードのタクラマカン砂漠。日本列島より広い、「生きて帰らざる」神秘の地…。心が癒される瞬間を圧巻の筆致で描き、連載時から大反響を呼んだ傑作。

内容(「MARC」データベースより)
腐りゆくこの国で、俺もこのまま腐っていくのか-。生きる針路を失い、人生の半ばに立ち尽くす憲太郎。想いは「途轍もなく大きな場所」へと誘われていった…。毎日新聞連載小説。


カスタマーレビュー

「優れたおとな」たらん、ということ…5

 最初に私事で恐縮だが、06年末から妻は病を得ている。その妻が入院先の患者向け図書として備置してあったこの『草原の椅子(上・下)』を読み、私に「とても心を動かされた小説だから…」と当書を勧めてくれた。私は、短編集である『胸の香り』を除き、宮本輝氏の長編作品についてはリリシズム溢れる名作『泥の河』や『螢川』以来久しく遠ざかっていたのだが、早速、本書を購入、味読した。結論から先に述べると、熟年男(?)である私の胸底にじんわり染みわたるような感動を与えた小説であった。

 おそらく本書の「陰の主人公」は、中学校しか出ていないカメラ量販店のオーナー、富樫重蔵であろう。彼に作者の意想(というよりホンネ)が投射されている気がしてならない。真のヒーローは、本作品の主人公としての制約を免れ得ない遠間憲太郎ではなく、道化回し的なバイプレーヤーである富樫重蔵ではないだろうか。そして、この小説に通底するのは、たとえば富樫の洩らした「一所懸命働いている人間から、だんだん、だんだん、働き甲斐や生き甲斐を失くさせていくのが、この日本という国や」(上巻)といったような“日本(人)に対する落胆・失望”と、フンザの老人が発した「正しいやり方を繰り返しなさい」という“優れたおとなへの方向性(使命)”であろう。

 宮本輝氏は、作中において遠間に「子供たちが尊敬できるおとながいなくなったんだ。いまどきの子供たちよりも、いまどきのおとなたちを問題にしなきゃあいけないんだ」(下巻)と語らせている。氏は「あとがき」で「『日本』に『おとな』がいなくなったことを痛切に感じ」、その「おとな」に関する氏なりの定義を述べた後、氏は「『草原の椅子』は、私自身が、優れたおとなたらんとして書いた小説かもしれない」と同書のモチーフ的なことを書している。そういった意味をも踏まえ、この『草原の椅子』は熟年男性向け傑作小説の一つとして数え上げても良いだろう。

心の癒し5
何故か内なる衝動が癒しを求め、この本を手にしました。
主人公憲太郎は、パキスタンのフンザで老人から貴方にはまだ使命が残っていると理解できる言葉を告げられます。
使命を考えるにしても、自分の現実をみてその落差に戸惑う人が多いのではないでしょうか。
しかし更に進んで、作者は「今の貴方は魔が差しているだけなんだよ!魔は人間としての生命力が落ちている時につけいるんだよ!」と読者に語りかけます。
ここで私は、はっとした気持ちになりました。
そして作者の人間洞察力に脱帽しました。
いま悩みを持つお父さん達には、是非お勧めしたい本だと思います。
読後には、フンザにも行ってみたくなりました。

人間としての優しさ、生きていくという思い5
「人情のかけらもないものは、どんなに理屈が通ってても正義やおまへん」

物語の序盤に富樫重蔵の言葉を思い出すシーンがある。
孔子の言葉を富樫が自分の言葉として咀嚼した名言である。
私たちは生きていくうえで理屈ではわかっていても
納得のいかない出来事にいくつも直面する。
そこにほんのわずかでも人の情が垣間見れたのであれば
私たちはその納得のいかない出来事に対して少しは心を許すことができる。
人間の機微がわかるほど自分はまだ年齢を重ねてはいない。
だからこそ憲太郎や重蔵のように、人の痛みを分かち合える
そうして自分の気持ちや欲望を抑制できる、いや抑制ではなく
品のある大人として自分を律することができる男になりたいと感じた。

何のために働くのか、などと考えるのは青臭いのか。
自分を大切にし、家族を大切にすることで仕事を大切にする。
そして自分に与えられた人生の使命を遂げていくのだ。
壮大なテーマなようであるが、一人一人の人生を
もっともっと真剣に向き合おうと考えさせてくれる物語。
10年後、20年後、また違った気持ちで読み返すことができる作品である。