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幻燈辻馬車〈上〉―山田風太郎明治小説全集〈3〉 (ちくま文庫)

幻燈辻馬車〈上〉―山田風太郎明治小説全集〈3〉 (ちくま文庫)
By 山田 風太郎

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  • 発売日: 1997-06
  • 版型: 文庫
  • 387 ページ

エディターレビュー

内容(「BOOK」データベースより)
明治の東京、孫娘を横に乗せ辻馬車を走らせる元会津藩士、干潟干兵衛。この孫娘と祖父は大山巖、三遊亭円朝、坪内逍遥、川上音二郎、自由党壮士らが引きおこす事件に巻き込まれていく―。時代にはじかれてしまった者たちの哀愁。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
山田 風太郎
大正11(1922)年、兵庫県養父郡関宮町の医家に生れる。昭和24年、「眼中の悪魔」「虚像淫楽」で第二回探偵作家クラブ賞を受賞。その後「甲賀忍法帖」を初めとする“風太郎忍法”を生みだし、忍法ブームをまきおこす。平成13(2001)年死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


カスタマーレビュー

日本史を勉強しなおそうという誘惑に駆られてしまう「おもうしろうて、やがてかなしき」風太郎ワールド5
 戊辰戦争で妻を殺され、西南の役で息子を亡くした元会津藩士は、残された幼い孫娘を連れて辻馬車を営んでいる。危機に際して「父(てて)!」と幼い子が叫ぶと、血みどろの軍服姿の男が辻馬車から下りてくる・・・。
 他の「明治もの」と呼ばれる作品とも共通する、どこまでが史実なのか判然としないほど巧みに明治の有名人が交錯して登場する「山田風明治ワールド」。この作品ではそこに加え、主人公の妻や息子が幽霊で登場し、「幽界」も重なり合ってさらに複雑な異次元世界が描き出される。
 幽霊の登場で怪談の怖さもある作品であるが、この幽霊、たまになんともひょうきんなことを言ったりもする。この子も連れて行け、と言われて「それはだめだ、許容量を超える」と応える場面は笑えた。こんなところや、奇想天外な方法で人を隠したり、逃げ出したりと楽しませてくれる部分がある一方、主人公はじめ登場する人々の身の上などを通して描かれる、歴史の流れに翻弄されている一人ひとりの人間の姿は心に痛い。
 明治維新の激動の中の、教科書的にはあまり触れられない、負けた側の歴史。会津藩は幕府の命に従って京の警護に就き帝を守っていたはずが朝敵として敗者となる。新政府が新しい藩をおくと、未開の極寒地斗南藩へ遷らされる。西南の役がおきれば、今度は政府側として薩摩を攻撃に行く。実際にこのような体験をした会津人の書き残したという書があることもこの小説で知り、捜してしまった。つい、日本史を勉強しなおそうとしてしまう誘惑に駆られるのは風太郎ワールドの良い点なのか、どうなのか。

 明治政府のやり方を正そうとする自由党を、どちらかと言えば好ましいと思っている程度だった主人公は、はからずも彼らに手助けをしてしまう。それでも、壮士の一人が恋人を利用したときには「「あなたはきれいなことをやろうとしながら、汚い恋をしなさった」と怒り、「罪のない無縁の人を殺して何が自由の旗じゃ」と書く。「明治もの」の中でもとこの「幻燈辻馬車」などは、娯楽要素と共に著者の戦争体験から来る歴史や生き方への意見が強く現れているようだ。

 本書中の言葉を借りれば、「人の世に情けはあるが、運命に容赦はない」。登場人物の数奇な運命や行動はお話としてはおもしろいが、実際にそんな人生があったかと想像すれば悲しい。
 「おもうしろうて、やがてかなしき」話である。

日曜名作座で聞きました5
もういつだったか思い出せないぐらい前に、NHKラジオの日曜名作座でやっていました。題名が印象深かったので、最近になって明治小説全集を順番に読んでいます。会津藩の侍だった干兵衛とその孫娘お雛が古びた辻馬車で「キイクル、キイクル」という車輪の音とともに明治の東京を走ります。危機が迫るとお雛が「父(とと)」と銀鈴をふるような声で叫び、西南戦争で死んだ兵士の幽霊が、蝋を刻んだような顔に血をしたたらせ、血まみれの白刃をさげて出てきます。今まで全集はいずれもはずれなしですが、森繁久彌と加藤道子の声を思い出しながら、この巻にレビューを書きます。

明治十年代半ばの自由民権運動を背景にした連作集5
◆「車の音が消えるとき」

  元会津藩士・干潟干兵衛と孫娘のお雛の「親子馬車」に乗った三遊亭円朝。

  その際、ガタクリ馬車の普及で、仕事を奪われたことに
  不満を持つ人力俥の俥夫の大群に取り囲まれてしまう。

  干兵衛が絶体絶命となった時、お雛の「父!」
  という、銀鈴をふるような細い声が走り……。


  幽霊を気のせい神経のせいと考え、噺の一つに「真景(=神経)累ヶ淵」
  という題まで付けていた円朝が、実際に幽霊に遭遇してしまうという話。



◆「壮士たち」

  五人の壮士を馬車に乗せることになった干兵衛。

  その中の一人が、西南戦争に同じ警視隊として、
  従軍した服部だと気づいた干兵衛は声を掛けるが……。


  「壮士」とは、自由民権を呼号する、落魄した元武士の若い子弟のこと。

  干兵衛は、彼らを〈新時代の鼓吹者〉とは見ず、〈体制に乗りそこねた、あるいは排除
  された連中の、政府への苦しまぎれの反抗〉を行う者、つまり自分と同じ敗残者と捉え
  ています。


  今回、中江兆民の元弟子で、凄腕のフェンシング使い・柿ノ木義康が初登場。



◆「仕掛け花火に似た命」

  川口松太郎によって、「明治一代女」と呼ばれることになる
  花井お梅と、自由党の壮士との悲恋の顛末を描いた作品。

  善意でお梅を助けた干兵衛が、結果的に二人を破滅に導くという皮肉な結末には、
  「正義」が必ずしも人を幸せにするとは限らないということ、あるいは、「正義」は
  相対的なものにすぎない、という作者の思想が如実に表れているといえます。



◆第四〜六話