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天使の蝶 (光文社古典新訳文庫)

天使の蝶 (光文社古典新訳文庫)
By プリーモ レーヴィ

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  • 発売日: 2008-09-09
  • 版型: 文庫
  • 407 ページ

エディターレビュー

内容(「BOOK」データベースより)
「先史時代の鳥類」のような奇怪な骨を見つけたのは、廃墟と化した大戦後のベルリンのアパートの一室…。表題作「天使の蝶」には、化学者でもあったプリーモ・レーヴィの世界観が凝縮されている。人間の夢と悪夢が交錯する、本邦初訳を多数収録した傑作短編集。化学、マシン、そして人間の神秘をつづった珠玉の15編。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
レーヴィ,プリーモ
1919‐1987。イタリアの化学者・作家。トリノのユダヤ系の家庭に生まれる。1943年、ドイツ軍のトリノ占領に伴いレジスタンスに参加するが、捕らえられアウシュヴィッツ強制収容所に送られる。1945年、ソ連軍により解放され、奇跡の生還を果たす。帰国後、化学塗料工場に勤めながら、自らの体験を書いた『アウシュヴィッツは終わらない』を刊行し、高い評価を得る。その後、独特の視座で現代社会や人間を諷刺した幻想小説なども発表。1979年には、『星型レンチ』でストレーガ賞を受賞する

関口 英子
埼玉県生まれ。旧大阪外国語大学イタリア語学科卒業。翻訳家。児童書から映画字幕までイタリア語の翻訳を幅広く手掛ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


カスタマーレビュー

イモムシは、蝶にもなるが蛾になるものもある。5
 著者は化学者で作家。その科学者としての知識が微妙に醸成されて、不思議な味に仕上がっている短編集である。
 「記憶喚起剤」という、匂いがとてもはっきりとした記憶を呼び覚ますことがある、ということを題材とした話。蜜蜂のダンス=言葉など、おそらくは著者が執筆したその時代(1960年代ごろ)の最新の科学知識を題材にしたと想像される話。現代の科学知識を題材にしたら、どんなものを書くだろうか、と想像が広がる作品ばかりである。「発明会社」のようなものをあつかった連作は文明批判のような味も感じさせ、どれもなかなか楽しめた。
 表題になった「天使の蝶」は、ネオテニー(幼形進化)を題材としたもの。人間もネオテニーだとしたら、もしもアホロートルのように成体に変化させることができたら・・・、という話である。この話の結末は、「トマトとジャガイモはどちらもナス科だから、細胞融合させて両方の特徴を発現させたら、『地上にトマト、地下にはジャガイモ』ができて一本で二つの食料が取れるのでは!と実験をしたら、できたものは『地上はジャガイモ、地下はトマト』になってしまった」という、「二兎追うものは・・・」の典型のような小話を思い出させるところがある。いや、もっと簡単に、「芋虫を育ててみたら、蝶にならずに蛾になった」というところだろうか。

 著者はイタリア生れのユダヤ人で、アウシュヴィッツの強制収容所に送られた経験を綴った本を書いている(「アウシュヴィッツは終わらない」)。どうも、こちらの方が先に著者を有名にしたようである。先に挙げた表題作も、舞台は爆撃下のドイツである、著者の戦争体験の色が濃く出ているのもうなづける。

 翻訳している方は、この光文社古典新訳文庫でこれまでにもロダーリ「猫とともに去りぬ」やプツァーティ「神を見た犬」など、一味違った短編を紹介してくれている。これからも面白い作家を紹介して欲しい。

この本も人間の友!5
この文庫によって初めて名前を知った著者ですが、「良い出会いがあったな〜」といい気分になりました。それは、すごく気に入った短編があったから。
全体的におもしろいアイデアのものばかりですが、『人間の友』には特にぴったりくるものを感じました。

10ページ弱で忘れられない印象を残す『人間の友』は、サナダムシの細胞の配列が実は韻を踏んだパターンになっていて、解読すると詩になるというもの。
寄生主への賛美とか、駆除される間際の嘆きとかが、ひそかに歌われているのです。寄生虫だけに、「光こそが死、闇は不死を意味する」とか・・・。
だからどうっていうこともないのに、もの言わぬ生き物もそれはそれなりに格調高く?生きているさまが描かれると、笑ってしまいます。皮肉が利いていながらも、しみじみとうれしい笑いです。
実際には人間は人間以外の世界から締め出されているけれど、こういったフィクションの冴えた擬人化がなぐさめてくれるというか。サナダムシではありますが。

でも、そんなほほえましい作品を書いた著者が、アウシュビッツの体験者とは。そうと知ると、「あなたには、ぜひ考えてほしい。わかってほしい」と訴えかける、サナダムシの一個体の最後の詩が、他とはちょっと違ったトーンを持っている理由がわかるような気がします。
ただ、その感慨も、オチまで行き届いた笑いの中にあるからこそ輝くもの。読んだ後になんとなく希望が感じられるのは、このバランス感覚のおかげかもしれません。

人にやさしいおもしろさがあふれたこの短編集は、単なる奇抜な小説とはひと味ちがって感じられるはず。おすすめです。

文明社会への恐怖4
タイトルの美しさにひかれて手に取った人は要注意。
おさめられた物語はどれも文明社会への皮肉と進歩を追い求める人間の恐怖を描いている。
表題作は「天使」は人間がさらに変態した姿であるとして実験を試みていた学者の物語である。
また、いくつかの物語にNATCAという変な機械を売る、利益優先のアメリカ企業とそのセールスマンのシンプソン氏が登場する。自社製品をこよなく愛し、悪用した客を非難したシンプソン氏の結末も興味深い。(悪用するなって方が無理な商品を平気で売り出しているのはアメリカ資本への皮肉だと思う)