危機の宰相
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商品の詳細
- Amazon.co.jp ランキング: #248071 / 本
- 発売日: 2006-04
- 版型: 単行本
- 309 ページ
エディターレビュー
内容(「BOOK」データベースより)
政治家・池田勇人、エコノミスト・下村治、宏池会事務局長・田村敏雄―大蔵省という組織における敗者三人が、戦後の激動期をへて、「所得倍増」という夢を現実化してゆく…。「文藝春秋」誌上に発表された幻の作品が、加筆されてついに単行本化!!『テロルの決算』と対をなす歴史ノンフィクションの傑作。
内容(「MARC」データベースより)
政治家・池田勇人、エコノミスト・下村治、宏池会事務局長・田村敏雄-。大蔵省という組織における敗者3人が、戦後の激動期をへて、「所得倍増」という夢を現実化してゆく…。歴史ノンフィクションの傑作。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
沢木 耕太郎
1947年、東京都に生まれる。横浜国立大学卒業。79年、『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞、82年、『一瞬の夏』で新田次郎文学賞、85年、『バーボン・ストリート』で講談社エッセイ賞、93年、『深夜特急』でJTB紀行文学大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
カスタマーレビュー
輝いていた時代を懐古するためだけにあらず
「死ぬならば職場で死にたいと思ったのです」下村治というそれまで徹頭徹尾、官僚中の官僚として描いてきた人物から感動的な言葉を引き出したインタビューで締めくくられているように、池田勇人、下村治、田村敏雄という三人のルーザーが日本を奇跡に導いたプロジェクトXのような娯楽小説として楽しむことも十分に可能です。
しかし、各インタビュー、出来事の連なりを通して見えてくるものは、奇跡を信じないことに他ならない。「所得倍増」というスローガンはまさに地に足の着いた政策であって、瑣末な事柄に拘って大事を見逃さなかった池田総理の慧眼のなせるわざを表している。
大所高所から経済成長という万能薬(ただし、完全なる解決策ではない)の有効性を見越し、その他の問題を些事といわんばかりに「忍耐と寛容」の姿勢でもって受け流したこと。結果的に安保闘争に始まる熱い政治の季節における左派への大衆の支持を失わせ、日本の社会を安定、長期繁栄に導いた。
今、ようやく回復しつつある経済をなおざりに各別個のそれこそ些細な問題を姦しくがなりたてる時勢だからこそ鑑としたい一冊です。
ルーザー(敗者)に注がれる熱いまなざし
ルーザー(敗者)という言葉にどのような奥行きを読み取るかによって、その人の人生観が如実に表われるように思う。高度経済成長の人物的象徴とも言うべき宰相・池田勇人。「所得倍増」という経済政策のブレーンとして池田を支えた下村治と田村敏雄。彼ら三人からルーザーという共通項を見出すのを果たして奇異に感じるだろうか?
沢木のノンフィクションにはスポーツを題材として取り上げたものが多い。私はスポーツには全くと言っていいほど興味がないのだが、『敗れざる者たち』には心をとらえられ、とりわけ『一瞬の夏』のカシアス内藤の姿には、落胆、共感、諸々の気持ちがたかぶるのを抑えられなかった。不遇だけど頑張った、という類の話ではない。勝ち負けとは全く異なる次元で、その人を衝き動かしていた“やむを得ざる何か”を描き出していることに大きな魅力がある。
池田は病を得て官僚としての出世競争から早々と脱落したが、時代の運命の中で一国の総理となった。彼を支えた下村や田村にもそれぞれに葛藤があった。スポーツと経済論戦、舞台は違う。しかし、当たり前な世間の視線からは漏れてしまっていた、彼らそれぞれが内に秘めていた“やむを得ざる何か”、そこに注がれる沢木のまなざしがやさしく熱い。
誰にも期待されなかった男たち
沢木耕太郎という人は「偏愛」の人だと感じる事が多い。彼の心を激しく揺さぶる人物が現われるやいなや、その人物の視線から世界を再構成しようとする欲望を抑えられなくなる。その人物が歴史や周囲の環境から忘れられ、現在の状況が不遇であればあるほど、その人物に対する描写は冷めた鋭さの中で、激しく燃え上がる。その筆遣いからは、その人物を歴史から消去し、忘れ去ろうとするもの達に対する、言葉のテロともいえる鋭い殺意が見え隠れするのだ。かって井上陽水が沢木耕太郎は最高の殺し屋になれると評していたのは彼の仕事に対する完全主義的な手際の良さともに、通常言う意味での「道徳感」の欠如を鋭く見抜いているからだ。正確に言えば、それは欠如というより、道徳より義侠心や美学が優先されてしまうことを感じてのことだろう。彼の書き出す歴史の逆光の中には、義侠心による美学が道徳を超えて大きな輝きを放つことが多いような気がする。そもそもこの本が「魁星出版」という無名の出版社から単行本化されたのも、沢木氏の義侠心の発露に他ならない。沢木氏の歴史系の作品にはアルカイックな叙事詩の持つ歴史のうねりのダイナミックな感覚が充溢している。歴史は反復すると評される。所得倍増論による高度経済成長を掲げる池田内閣に対して、多くの学者やジャーナリストが批判的な立場をとった。しかしその立場が堅持できなるや、今度は「経済成長によるひずみ」論に転移し、自らの言説の責任をとることなく延命した。沢木氏がこうした「口舌の徒」に対する「絶望感」を語るとき、小泉政権の経済政策に批判的だった経済学者やジャーナリストが、経済が好調に転移し始める否や雪崩をうったように「格差社会の弊害」論に転移していく様を重ねてしまう。その醜悪さの反復を、我々もまた沢木氏と同じ「絶望感」を噛み締めながら静かに憎悪するのだ。





