巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)
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商品の詳細
- Amazon.co.jp ランキング: #42410 / 本
- 発売日: 2008-04-11
- 版型: ハードカバー
- 607 ページ
エディターレビュー
内容紹介
モスクワに出現した悪魔の一味が引き起こす不可解な事件の数々。20世紀最大のロシア語作家が描いた究極の奇想小説。全面改訳決定版!!
焼けつくほどの異常な太陽に照らされた春のモスクワに、悪魔ヴォランドの一味が降臨し、作家協会議長ベルリオーズは彼の予告通りに首を切断される。やがて、町のアパートに棲みついた悪魔の面々は、不可思議な力を発揮してモスクワ中を恐怖に陥れていく。黒魔術のショー、しゃべる猫、偽のルーブル紙幣、裸の魔女、悪魔の大舞踏会。4日間の混乱ののち、多くの痕跡は炎に呑みこまれ、そして灰の中から〈巨匠〉の物語が奇跡のように蘇る……。SF、ミステリ、コミック、演劇、さまざまなジャンルの魅力が混淆するシュールでリアルな大長編。ローリング・ストーンズ「悪魔を憐れむ歌」にインスピレーションを与え、20世紀最高のロシア語文学と評される究極の奇想小説、全面改訳決定版!
〈ぼくがこの作品を選んだ理由 池澤夏樹〉
時として小説は巨大な建築である。これがその典型。奇怪な事件や魔術師やキリストの死の事情などの絵柄が重なる先に、ソ連という壮大な錯誤の構築物が見えてくる。この話の中のソ連はもちろん今の日本であり、アメリカであり、世界全体だ。
内容(「MARC」データベースより)
焼けつくほどの異常な太陽に照らされた春のモスクワに、悪魔ヴォランドの一味が降臨する。やがて町のアパートに棲みついた悪魔の面々は、不可思議な力を発揮して、モスクワ中を恐怖に陥れていく…。
カスタマーレビュー
細部も面白い本
本文だけで600頁近い本だが、適当なところを開いて70頁ぐらい読むというのを繰り返している。細かいエピソードが面白いので、つい引き込まれてしまうのだ。ちょっとしかでない脇役端役でも、印象深いキャラクターが多い。あの謎めいたレストラン支配人アルチバリド=アルチバドリッチ、堅実で賢明なリムスキーなど、詩人リューヒンもその失望は理解できるし、疫病神アーヌンシカもなかなかなキャラだと思う。「ブルネットの女」すら、その後どうなったか知りたくなってしまう。小間使いのナターシャ、救われたフリーダはどうなったんだろう。有名キャラのなかではやはり黒猫ペゲモートが作者の傑作だと思う。むしろ「巨匠」と「マルガリータ」のキャラのほうがつかみにくい。
演劇に深く関ったブルガーコフのせいか、会話が非常に多い。内省的な地の文が少なく、殆ど会話で外にでてしまっている。なかでも傑作は、ピラトゥスと秘密警備隊帳の会話だろう。大祭司ですらその会話は魅力的で演劇的である。
20年以上つきあっている本の改訳だが、良くなったところがある。例えば冒頭は杏ジュースではなく杏ソーダがでてくるが、飲んだ後しゃっくりがでるという意味ではこのほうがよい。遺作のためストーリーが内部矛盾しているところもある。決定稿がなく、作者が書いた一応の完成原稿が2種類もあり、部分原稿もあわせると6種もあるという状態だから、1973年版と1990年版でかなり異同があり、それをどう処理するかは校訂の問題らしい。読者としては、必ずしも翻訳者の誤訳や勝手な省略とはみなせないところがつらい。私はロシア語が読めないが、日本語の小説としては、今のところはこの水野訳と中田訳が自然だと思う。
また、この本は古い集英社版より活字が大きくて、老眼がきている私にはありがたい。
原稿は燃えない!
冒頭からのミステリータッチで読むものを飽きさせない。「お前は青年共産党員の女に首を切断されて死ぬ」なんて言われ、その直後にそのとおりになってしまう。ドキッ、キャッ!
各章の小話がとても面白く、キリスト兄ちゃんの時代から、革命直後のロシア社会を行きつ戻りつするファンタジー・ノヴェル。そしてスターリン独裁政治に対する反旗のSF小説でもある。当時のロシア社会の実情からすれば、とても勇気のある執筆活動であったはず。やはり、著者の生前中は一度も出版されなかったらしい。
著者はロシア暴力革命を遂行した「赤軍」とは反対の立場であった皇帝直系「白軍」の兵士であったということも非常に興味深い。
この間の屈辱を作者は、作品中、悪魔に「原稿は燃えないものなのです!」と言わせている。そして、"巨匠"が燃やしてしまった「ポンティウス・ピラトゥスVSヨシュア」の小説が、「燃えなくて」甦るのだ。キリスト兄ちゃんが、甦ったように。
黒魔術のヴォランド教授、元聖歌隊隊長のコロヴィエフ=ファゴット、おしゃべり猫の”ベゲモート”、そして人妻の見習い魔女(これがわれらが”マルガリータ”)。
しかし、マルガリータと”巨匠”との出会い、いきさつをそれほど詳しく書いてくれていないのが少々物足りない。へんてこりんな、どたばた悲喜劇、場面場面のカット割がとても現代的で、ヴィジュアルにヴィヴィッドに読者に伝わってくる。21世紀アメリカ文学の人気作家、スティーブン・ミルハウザーの絵画的文章に似ていなくもない。
それにしても、変な小説だ。書かれた時期からすると、まことに不思議な小説。
あの、新訳「カラマーゾフ」の亀山氏が、NHK教育TV「悲劇のロシア」でこの作家を激賞していた。この全集に入ったことを契機に、亀山氏を含むこの分野のエラい人にもっともっと詳しい解説をして欲しいと思わせる「おそるべき作品」なのである。
ニッポン語を母語とするシアワセ
わがニッポンにおいて、他に誇ることのできる珍しいケース。それは、ドストエフスキー全集が3種類あり、『カラマーゾフの兄弟』を文庫本で米川正夫、原卓也、池田健太郎、亀山郁夫と一部は古本屋も利用すれば4種類のそれぞれの名訳で読めることである。文庫ではないが、小沼文彦訳も格安で手に入る可能性もあるかも。
こうした望外のシアワセに、もう一つのシアワセとして加えるべきは、『巨匠とマルガリータ』が3種の訳で読めることだ。これは驚くべきことだと思う。ロシア文学に関して言えば、研究水準も随分と高いと思うが、それと比例して、またはそれ以上に一般読者のロシア文学環境は最上である。おそらく、フランスやドイツなどといった西欧の文学大国よりも上であろう。
詩はともかく、世界文学たる小説は翻訳でも十二分に味わえるからだ。ここは素直にニッポン語を母語とすることを寿ぐことにしよう。
ニッポン人は国としてのロシアは一貫して好きではないらしいが、ロシア文学のことはほんとに愛しているものらしい。


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