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故郷忘じがたく候 (文春文庫)

故郷忘じがたく候 (文春文庫)
By 司馬 遼太郎

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  • 発売日: 2004-10
  • 版型: 文庫
  • 234 ページ

エディターレビュー

内容(「BOOK」データベースより)
十六世紀末、朝鮮の役で薩摩軍により日本へ拉致された数十人の朝鮮の民があった。以来四百年、やみがたい望郷の念を抱きながら異国薩摩の地に生き続けた子孫たちの痛哭の詩「故郷忘じがたく候」。他、明治初年に少数で奥州に遠征した官軍の悲惨な結末を描く「斬殺」、細川ガラシャの薄幸の生涯「胡桃に酒」を収録。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
司馬 遼太郎
大正12(1923)年、大阪市に生れる。大阪外国語学校蒙古語科卒業。昭和35年、「梟の城」で第42回直木賞受賞。41年、「竜馬がゆく」「国盗り物語」で菊池寛賞受賞。47年、「世に棲む日日」を中心にした作家活動で吉川英治文学賞受賞。51年、日本芸術院恩賜賞受賞。56年、日本芸術院会員。57年、「ひとびとの跫音」で読売文学賞受賞。58年、「歴史小説の革新」についての功績で朝日賞受賞。59年、「街道をゆく“南蛮のみち1”」で日本文学大賞受賞。62年、「ロシアについて」で読売文学賞受賞。63年、「韃靼疾風録」で大仏次郎賞受賞。平成3年、文化功労者。平成5年、文化勲章受章。平成8(1996)年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


カスタマーレビュー

あなた方が三十六年をいうなら、私は三百七十年をいわねばならない5
書名になっている「故郷忘じがたく候」は、秀吉の朝鮮出兵時に日本につれて来られた朝鮮人一族の今を取材したエッセイ風の物語である。名を沈寿官氏といい、朝鮮伝来の作陶技術をもって薩摩藩に長く礼遇され、すでに14代を数える陶工の名家である。

日本にきて400年余り、すっかり日本人になって、誰よりも薩摩人らしい薩摩人といわれ、それでもなお、旧暦8月15日の満月の夜は、故郷の山々の方角に向かって、この村人たちは先祖に祈りをささげる、という。時を経てもなお、ふるさとへの想いは深く、年輪を幾重にも重ねて消えることはない。

両国の間には歴史的な不幸が何度もあり、そのたびに犠牲になった無辜の朝鮮の人たちがいた。秀吉当時の日本人がしたことに対して現代の我々日本人に罪はない。詫びる必要もない。しかし、同じ人間として彼らの気持ちを理解することはできるはずだ。

沈寿官氏が400年ぶりに里帰りしてソウル大学で講演をした。そのとき、韓国の学生が口をそろえて三十六年間の日本の圧政について語ることに疑義を呈し、そのとおりではあるが言いすぎることは後ろ向きである、新しい国家は前へ前へと進まなければならないというのにこの心情はどうであろう、といい、
「あなた方が三十六年をいうなら、私は三百七十年をいわねばならない」
と締めくくった。聴衆は拍手はしなかったが、韓国全土で愛唱されている青年歌の大合唱で答礼した。沈氏は目が涙でかすみ、動けなかったという。この光景に強く感動を覚える。

朝鮮半島の人々との間には、ずっとなにがしかのわだかまりがある。掌編ながらも、そのことに思いをいたすよいきっかけとなった。これは司馬作品の中でもぜひ読んでおくべき一編である。

ほかに、幕末の会津討伐前夜を描いた「斬殺」、戦国末期、細川忠興とその美貌の妻、ガラシャを描いた「胡桃に酒」の二編。いずれも短編ながら重厚な趣きである。

胸がつまる5
三つの短編で構成されています。印象的なのがタイトルにもなっている一編です。秀吉の朝鮮遠征の際に連れてこられた彼の地の人々が薩摩の地で焼き物をしながら代々命を繋いできた、その中の一人14代目沈寿官氏の話です。小説と言うより、寿官氏の今までを筆者が書いているような形になっています。私は特別な立場に置かれたことがありません。誰かに違った目で見られたこともなく、日本人である事を疑ったこともなく、事実日本人です。400年前に不本意ながら日本に渡り明治維新時には勇敢に戦った祖先がおり、韓国語での日常会話は出来ないにもかかわらず、韓国人としての歴史を持つとはどんな気持ちでしょう。ぐっと来たのは韓国の若者の前での講演で先の大戦での日本との関係について話した時の描写です。読んでいるうちにその情景が目に浮かび、つい涙ぐんでいました。初版が1976年なので最近の韓国の関係とはまた、様子が違うでしょう。それでも薩摩にそういう人々がいると言うのを知っただけでもとてもよかった。苗代川に行ってみたくなります。

運命に翻弄4
表題作の「故郷忘じがたく候」は朝鮮の役で島津に連行された朝鮮人の陶芸職人沈寿官の一族の悲哀を、小説というより筆者の取材のような形で描いています。
話に出てくる14代沈寿官氏の写真を検索してみると、人の好さのにじみ出たご尊顔を拝む事が出来ます。
そもそも焼物の知識が全く無いのですが、こういった作品を通して歴史を踏まえて新しい事を知ることが出来たのはよい事だと思いました。

次の「惨殺」は戊辰戦争で奥州に遠征した官軍の参謀に任ぜられた長州のある人物の悲惨な結末を描いています。
奥羽越列藩同盟という言葉自体はしばしば聞きますが、この頃の、伊達政宗を祖に持つ仙台藩や上杉謙信を祖に持つ米沢藩といった往年の名藩の顛末を知らなかったのでそういう点で楽しめました。
もっとも、顛末とは言いましたが藩の最後までは語られず、主人公の死を最後にして短編は終了しています。

最後の「胡桃に酒」は細川ガラシャの輿入れからその一生の最期までを描いています。
戦国期を通してもガラシャとその夫、細川忠興はそれぞれ特異な性質を持つ人物として色々な話があって有名ですが、
「胡桃と酒」という食い合わせの悪さを自身の夫婦間の関係になぞらえてガラシャが叫ぶ場面は悲運な生活を送っている中にも、
その見事な最期からも窺えるように、日ごろから秘めていた悲壮な決意の顕れを目にしたような印象を受けました。
自身の子供を除いて、父や親類の尽くを処刑されてしまうなど、この人物に対しては「悲劇の女性」という言葉を用いても何ら脚色や遜色など無い女性と言えるのではないでしょうか。