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月島慕情 (文春文庫)

月島慕情 (文春文庫)
By 浅田 次郎

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  • 発売日: 2009-11-10
  • 版型: 文庫
  • 319 ページ

エディターレビュー

内容(「BOOK」データベースより)
恋する男に身請けされることが決まった吉原の女が、真実を知って選んだ道とは…。表題作ほか、ワンマン社長とガード下の靴磨きの老人の生き様を描いた傑作「シューシャインボーイ」など、市井に生きる人々の優しさ、矜持を描いた珠玉の短篇集。著者自身が創作秘話を語った貴重な「自作解説」も収録。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
浅田 次郎
1951(昭和26)年、東京生まれ。著書に「地下鉄(メトロ)に乗って」(第16回吉川英治文学新人賞)「鉄道員(ぽっぽや)」(第117回直木賞)「壬生義士伝」(第13回紫田錬三郎賞)「お腹召しませ」(第1回中央公論文芸賞、第10回司馬遼太郎賞)「中原の虹」(第42回吉川英治文学賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


カスタマーレビュー

浅田氏の「泣かせ」について5
「平成の泣かせ屋」の異名を取る浅田氏の短編集。さすがに稀代のストーリーテラー、凄いです。何が凄いか……。巻末にある桜庭一樹氏の解説に次のような一節があります。「浅田次郎の小説は、読者を泣かせるから偉いんじゃない。涙の理由が自分でもわからないから、凄いんだ」
 「月島慕情」「供物」「雪鰻」「インセクト」「冬の星座」「めぐりあい」「シューシャインボーイ」の7編。泣ける話ばかりです。
 浅田氏の所謂「泣かせ」については、否定的な意見がある。例えば「月島慕情」と「めぐりあい」ではつかみかけた幸せを自ら身をひくことで逃してしまう女性を描いているが、男にとってまことに都合の良い女を創り上げその行為を美化するという欺瞞に満ちた小説だ、といった意見です。しかし私はそれはあたらないと思います。浅田氏が描く人物は、心には心で応える人物だから。つまり相手の気持ちに報いるために自分を捨てる覚悟を持っているからです。浅田氏は「シューシャインボーイ」の中で菊治にこう語らせます。「世間のせいにするな。他人のせいにするな。親のせいにするな。男ならば、ぜんぶ自分のせいだ」

変幻自在なストーリーテラー5
作家とは、この人のように空中から金貨やボールペンを取り出すように、180度違う世界、ジャンルを飛び越えた作品を次々に作り出して聞かせる人をいうのでしょうか。それとも浅田氏のみが、そのような縦横無尽な別々の時代、分野の話を実際に本人が見てきたかのように創作できる人なのでしょうか。物語をつむぎ出す小説界の安打製造機と言ってもいい人のように感じました。

この本のすべての話が面白い。私が特に感銘を受けたのは太平洋戦争末期の日本軍が負け戦、玉砕の南方戦線での話だ。作者はほかの人から体験談を聞いたのだろうと思われるが、自分の腕の腐敗した傷口から湧き出る蛆虫をつまんで貴重な蛋白源として食べて、内地や激戦地でない地域から会議に集まったノンビリムードの他の将校たちの度肝を抜き、顔をそむけさせ驚かせるシーンの描写。南方の島で食料も尽き、飢餓に耐えかねて同僚の兵士を殺し、肉を食べる。その、人としての道を踏み外した兵隊をジャングルの中を探して歩き、人としての誇りを持って責任をとるように説諭して射殺して回る役目。同僚を食べるために殺す兵隊、その兵隊を教え諭し処断して回り、殺す役目。また敵国の兵隊を殺す戦争。やりきれない現実を実態を精細にとらえ、世間に知らしめてくれた作品。