蝶 (文春文庫)
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商品の詳細
- Amazon.co.jp ランキング: #8290 / 本
- 発売日: 2008-12-04
- 版型: 文庫
- 221 ページ
エディターレビュー
内容(「BOOK」データベースより)
インパール戦線から帰還した男は、銃で妻と情夫を撃ち、出所後、小豆相場で成功。北の果ての海に程近い「司祭館」に住みつく。ある日、そこに映画のロケ隊がやってきて…戦後の長い虚無を生きる男を描く表題作ほか、現代最高の幻視者が、詩句から触発された全八篇。夢幻へ、狂気へと誘われる戦慄の短篇集。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
皆川 博子
昭和5(1930)年生れ。東京女子大学外国語科中退。48年「アルカディアの夏」で第20回小説現代新人賞を受賞。60年「壁―旅芝居殺人事件」で第38回日本推理作家協会賞、61年「恋紅」で第95回直木賞、平成2年「薔薇忌」で第3回柴田錬三郎賞、平成10年「死の泉」で第32回吉川英治文学賞を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
カスタマーレビュー
凄まじい短編集
凄まじい短編集だ。もうこの一語に尽きる。薄くてすぐに読めてしまう本なのに、世界が変わり確実に自分の中に重くずっしりしたものが沈殿していくのがわかった。本書に収められている短編は、すべて詩句にインスパイアされている。もともとぼくは詩句には疎いほうで詩集や句集などは読んだことがないのだが、ここで取り上げられている詩句を読むかぎり、どうしてこのジャンルをもっと探求しなかったのかと歯噛みしたくなった。それほどに皆川博子の取り上げる詩句の世界は魅力的なのだ。本書を読んで、まず憧れが胸中を占め、詩句の世界に遊ぶ新鮮さを味わい、そして作者のつくりだす甘美で残酷な世界にしびれた。すべて舞台は日本である。それも一昔前、先の大戦前後の時代の話である。日本が世界から孤立し、狂気にまみれ熱く沸騰した時代。だが、ここで描かれるのは戦争ではない。戦争に翻弄される人々は出てくるが、戦争そのものにたいする記述はほとんどない。かわりに本書には、この時代に日本に根付いていた負の風潮が数多く出てくる。復員兵、戦争孤児、妾、男尊女卑、結核。そこに作者は美しさと、いい匂いと、残酷で清らかな詩句をおりまぜ、この上なくなめらかな文章でもって忘れがたい物語を紡いでいくのである。特に最後の三篇のインパクトは素晴らしい。夢に見そうなくらいだ。
気づけばスッと体温が下がり切っている
横瀬夜雨、薄田泣菫などの短詩をモチーフに現代最高の幻視者が紡ぎ出す戦慄の8短篇
嫋やかに揺れ惑う幻想小説だと思い手に取ったら、冷たい煌きの白刃でバッサリ斬り捨てられた、、、そんなゾッとする感触も孕んだ美しくも危ない短編集。耽美な詩句をアクセントとして持ち寄り、それに依って異なる質感を醸していく作品こそ多々あれど、詩句そのものの情動を、まるでそれを核にして生脈させていくような本作の世界観は完全に異質。詩句そのものが放つ悲鳴のように鋭い感覚と交じり合う物語は、それと気づかせることすらなく、しかし確実に読み手を狂気の淵へと誘い、食む。
既にして誰が、どういう状態で話しているのかさえ不明となる錯乱めいた異様な気配を放つ『空の色さえ』に始まり、重厚かつ仄暗い枠の中で、艶やかで畸形なる耽美が描かれる『妙に清らの』、幼年期特有の塞いだ世界へ、再び夢現(ゆめうつつ)の境(あわい)を溶かす狂ったチューンが入り込む『竜騎兵は近づけり』へと続き、さらには秘められたエロスを求心軸に進む『幻燈』は、ラストで思いもかけない荒ぶりに打たれることとなり、個人的に最も好みであった『遺し文』での、劇的に途切れる光景へと終着することになる。
今自分に取り憑いている感覚が何なのか、それすらもハッキリとは判らないまでに強い幻惑を齎す作品の多くは、しかし同時に言いようもなく冷たく、硬質で凛とした佇まいで突き刺さる。気づけばスッと体温が下がり切っているような、わけの分からない感覚に落とされている。一字一句に背筋を伸ばして臨むことを求められるような、優美だが抜き身の狂気を感じさせる緊張感が素晴らしく、そして、怖い。




