荒地の恋
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商品の詳細
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- 発売日: 2007-09-26
- 版型: 単行本
- 312 ページ
エディターレビュー
内容紹介
五十三歳の男が親友の妻と恋に落ちた時、彼らの地獄は始まった。北村太郎、田村隆一、鮎川信夫。宿命で結ばれた詩人達を描く長編小説。
内容(「BOOK」データベースより)
詩神と酒神に愛された男・田村隆一。感受性の強いその妻・明子。そして、明子と恋に落ちる北村太郎。荒地派の詩人たちの軌跡を描く力作長篇小説。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
ねじめ 正一
1948年、東京都杉並区生まれ。青山学院大学中退。民芸店経営のかたわら詩を書く。81年、処女詩集『ふ』で第31回H氏賞受賞。88年、『高円寺純情商店街』で第101回直木賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
カスタマーレビュー
詩人でありつづけることの栄光と悲惨
昔、NHK教育の若者向け番組のなかで、田村隆一がインタビュアーの齋藤とも子(女優、のちに芦屋小雁と結婚するが離婚)に、「あなたたちのようなマクドナルドのハンバーガーがあたりまえになった世代は感受性が違ってくる」というようなことを言っていた。今にして思えば慧眼である。『荒地』の詩人たちのなかで、70年代の消費社会化という日本社会の構造的変化にきちんと対応していたのは、田村だったと思う(それと、吉本隆明も)。その対応は、「詩人」というキャラクターを貫くことでなされた。この時代、現代詩にくわしくない読者でも「詩人」として知っているのは、谷川俊太郎と田村隆一だった。
北村太郎が、絵に描いたような平穏な家庭を破壊する道を選んだのは、恋愛だけではなく、このような田村の立ち位置に対する嫉妬やライバル意識のようなものがあったのではないだろうか。戦後詩の歴史のなかにビッグネームのひとりとして記録されるのではなく、現役の詩人として生きる道を北村は選んだが、それはあまりに凄惨な代償をともなっていた。不倫のようなゴシップとしてではなく、詩人でありつづけようとした人物の栄光と悲惨の物語として、この小説は読まれるべきだと思う。
私は、一度だけ北村太郎を見たことがある。76年頃だったか、鮎川信夫の著作集が完結した記念の催しが開かれ、司会の三好豊一郎や講演者の吉本隆明らとともに出席していた。おそらく、小説に描かれた難しい恋愛関係がはじまった頃だ。小柄で、高いスツールに座って脚をぶらつかせていた北村の姿は、猫を思わせた。この本の表紙に描かれた猫の絵は、その時の北村のイメージによく似ている。この催しに田村隆一は出席していなかった。
よそごと小説
実名小説である。詩人・北村太郎を主人公に、友人・田村隆一の妻と不倫の恋に落ちる、その経緯を細かく描いている。何か資料があったのだろうか。しかしいくら資料があっても、会話の細部まで分かるわけはない。だから想像であろう。いかにも面白そうな内容なのに、面白くない。人物や会話が、類型的だからだ。もう一つは、会話を細かく書きすぎているからだ。もし私小説であれば、再現された会話はもっとリアリティーを持つが、よそごと小説だと、それが出ない。昔の瀬戸内晴美も、よくこういう文人の恋愛を描いたが、しかし遥かに遥かに上手であった。瀬戸内なら、会話の量をもっと減らし、事実をして語らしめただろう。なるほど、小説が下手というのはこういうことかと納得した。中央公論文藝賞受賞。
ねじめ正一だからこそ書きえた、詩人の恋
新聞社で校閲の仕事をしながら、詩を書いていた北村太郎。中学生の頃からの友人であり、「荒地」という同人誌仲間には、綺羅星のごとく輝く「田村隆一」がいる。
53歳になったその時まで、北村太郎が出版した詩集は2冊。
それでも校閲の仕事で得た収入で、妻と子ども二人と幸せに暮らしていた。
「家庭の幸福」
妻と娘のやりとりを聞きながら、しみじみとその言葉を思い浮かべた北村は、
しかし、その直後、「田村隆一」の妻・明子との激しい恋に「堕ちていた」のだった。
あまりに激しいその体験を、妻に打ち明けずにはいられなくなる、北村太郎。
「じつは好きな女性ができた」
夫の告白を、妻は最初本気にしなかった。テレビから目をそらさずに、
「そりゃよかったわね。新しい部署に可愛いお嬢さんでもいたんですか」
自分の想いを茶化されたような気がして、つい大きな声で、
「真面目な話なんだ。ちゃんと聞いてくれ」
と言ってしまう。
「真面目、ですって?」
妻が向き直った瞬間から、始まった地獄。
詩人であり小説家のねじめ正一だからこそ書きえた、傑作小説。
直木賞受賞作である『高円寺純情商店街』をはるかに超えた高い地点に、
氏は新しい境地を切り開いたのではないだろうか。
詩人ゆえに鋭敏に研ぎ澄まされた言語感覚で、鮮やかに切り取っていく、「恋」の瞬間。
地獄も天国も、実際に見た風景より、さらに色鮮やかにリ・プリントされていく感じ。
穏やかな家庭を持つ人が、激しい恋に堕ちるとどうなっていくのか。
互いに家庭を捨て、奔った先に、二人を待っていたものは何だったのか。
最後が、明るいのが救いだろうか。
でも、私はこの本を読んで、
「恋は心の中にしまっておこう」
って、そっと決心したのでした。
それほど激しい小説。




