榎本武揚 (中公文庫)
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商品の詳細
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- 発売日: 1990-02
- 版型: 文庫
- 355 ページ
エディターレビュー
内容(「BOOK」データベースより)
伝説によれば、脱走した三百人の囚人たちははてしない雪原をどこまでも越えて行き、阿寒の山麓あたりに彼等だけの共和国をつくり上げたと言われる。しかし、その後の消息は杳として知られない…。百年をへだてて彼等とその背後にあった榎本武揚を執拗に追う元憲兵、昨日の忠誠と今日の転向のにがい苦しみの中で唯一の救いである榎本は、はたして時代を先どりした先駆者なのか、裏切者なのか。
カスタマーレビュー
榎本武揚
安部公房といえば、超現実主義的手法。つまり現実にはありえないことを書き、その中に現実の不条理などを描き出す作家である。しかし本書は、安部公房としてはかなりそれらしくない作品である。読みやすい。当時の新聞などよりの抜粋などが出てきたりして、おおいに現実に即して書かれている気がする。
時は幕末、幕府海軍軍艦奉行、榎本武揚は、反新政府側の最後の砦となりつつあった。当時、日本にある最新鋭の軍艦八隻を率いるその人だった榎本と合流するべく北へ北へと落ちていく幕府陸軍のトップ大鳥圭介。新撰組二番隊組長、土方歳三。そして、その途中で土方に仕官した新撰組隊士、浅井十三郎が見て、聞いて、感じて、そして知ったこと。土方は死に、榎本は生き残った。それはなぜなのか。普段、語られることのない「戊辰戦争」の真の意味とは。
時代との関わり方という問題の象徴としての榎本武揚
まず、この小説の登場人物たちの歴史像を紹介しよう。
榎本武揚:英語、オランダ語を学び、プロイセン王国とオーストリアを盟主とするドイツ連邦諸国との戦いで、プロイセン王国が、情報(電信)とロジスティック(鉄道)という近代戦の要を駆使して勝利するのを、実際に目の当たりにする。慶応4年(明治元年)-明治2年、旧幕府海軍副総裁として、最後の戦い、箱館戦争を戦い抜く。その戦争にあっては、留学中に知った赤十字精神を実践し、敵・味方の区別なく治療に当たらせる。福沢諭吉らの助命嘆願により、生き延び、「明治最良の官僚」との評価を受ける。足尾鉱毒事件においては、初めて「公害」という概念を定着させる。二君に仕えたという点において、福沢諭吉は、オポチュニストと激しく批判した。
土方歳三:新撰組副長。戊辰戦争では榎本武揚と共に戦い、指揮官としての抜き出た才能を発揮する。池田屋事件で見られるように、冷静の人であったらしい。また、鳥羽・伏見の敗戦では、近代戦の必要性を痛感する、聡明な人でもあったらしい。ハンサムで長身であった土方は、35歳で戦死している。
島田魁:新撰組伍長。おそらくこの小説の「書き手」浅井十三郎のモデルとなった人物。箱館戦争では、常に土方と行動を供にし、戦い抜いた。明治の世にあっては、榎本武揚の(政治への)誘いを断った。また日記等を残し、貴重な歴史資料となっている。
この小説のテーマは、山田風太郎の言葉が裏から語っている。「榎本武揚が五稜郭で死んでいたら、日本史上の一大ヒーローとして末長く語り伝えられたであろう」。「時代」と関わる時、常に忠誠は善であり、転向は悪なのか?榎本武揚は、福沢諭吉の批判に代表されるように、転向者の烙印を押され、否定された。安部は、大胆な仮説の中での榎本武揚像によって、忠誠でもなく、転向でもない「時代」との関わり方を問う。
その問いは、経済のグローバル化により、国家というものが意味を失い、どんな主義からも自律的な巨大なシステムによって、全てのものが動いている現代という時代にあって、もはや意味がないように思えるし、逆に意味深いようにも思える。少なくても、土方歳三のように主義に殉じるという関わり方では、道を切り拓くことはできないだろう。
歴史って微妙。
「悪者」の役どころなのに、飄々として憎めない榎本氏の描き方が魅力的で新鮮で、悲劇的な史実をもとにしているのに、全体を通じてなぜか可笑しく、エンターテイメント小説として純粋に楽しめました。と同時に、実際、それはありえるかもと、少し違う角度から「歴史」を考えさせられもしました。
幕末小説としてはマイナーな部類だと思われますが、土方さんがかなり良い味を出しているので、新撰組フリークの方にはぜひ読んで欲しいです。





