商品の詳細
戦略的思考とは何か (中公新書 (700))

戦略的思考とは何か (中公新書 (700))
By 岡崎 久彦

価格: ¥ 798 1500円以上は送料無料 詳細

発送可能時期: 在庫あり。
販売、発送は Amazon.co.jp

29 新品/中古商品価格 ¥ 1

おすすめ度:

商品の詳細

  • Amazon.co.jp ランキング: #7786 / 本
  • 発売日: 1983-01
  • 版型: 新書
  • 279 ページ

カスタマーレビュー

『戦略的思考とは何か』の書評4
 著者は元外交官でこの本以外にも安全保障について著した本を多数出版している。この本は日本を取り巻く国際環境を見た時日本はどのような選択をするべきなのかを明示している。この本における著者の強調するポイントは日米関係の重視であろう。常に歴史を振り返ると国際環境における「力の実体」はアメリカ・イギリスといったアングロサクソン勢力にあるという。したがって日本の取りうる選択は現在におけるアングロサクソン勢力の巨頭であるアメリカとの関係を維持することであり、間違ってもアジア諸国による同盟やスラブ社会との結びつきは戦前の愚考を繰り返すだけだとして強く批判している。

 この著書が書かれた時期を見てみると70年代後半から80年代前半の冷戦期、特に旧ソ連が極東における軍事展開を強化した時期にあたっており、当時の日本の政策担当者一般の思考をよく表しているといえる。しかしこの本の良質な点はいくら時代が変化しても「力の実体」をどこにあるのかを見極めなければならないという視点を与えてくれて いるところである。

 もっとも批判する点をあえてあげるとすれば少々アメリカに対して甘い気がする。つまり日本の有事の際、本当に日本に援軍を派遣するのだろうか。著者の言うように歴史を振り返るのであれば強烈な人種差別的ともいえる反日感情で間接的な戦争突入の遠因をもたらした事実を考えると常にアメリカが信頼できるパートナーでありつづけるのだろうかと不安になる。このような事態を回避するためにアメリカの要求を飲み続ければならないのだろうか。これでは徳川政権下の幕府による諸大名の力を抑制するための「普請」と同じなのではないか。アメリカのピュアな部分が強調されすぎている気がする。(無論アメリカが比類なき情報力を兼ね備えていることも著者は明記しているが)アメリカ自身も日本に多くある基地を撤退させた場合の極東の安全保障をシミュレーション行っており常に複数のオプションを考えてるという。日本においても著者の持論である日米関係重視は大前提の上で複数の選択を提言すべきではないだろうか。もっとも著者はこの本の中でも複数の選択を掲げてはいる。しかし当時の世論や言論界の趨勢においては「際限なき軍拡」といった形で反対されてしまうので実行不可能だとしている。

 著者は他の先進諸国においては大学において戦略論が講義されていないところはないと述べている。一方日本を見てみるとおよそこのような講義がメジャーになっているとは言いがたい。このような状況では著者の意見に賛成であれ反対であれ議論の場に耐えうるような意見は表出しにくい。感情論等その場の雰囲気に影響され選択を誤る恐れもある。ゆえに著者がいう「戦略や軍事について考えるのは市民の常識」であるという主張は貴重であり、このような読みやすい形で提供されているのは心強いことである。    

思考の「ツール」としては役にたつ3
右翼の精神論的な思想や左翼の理想主義的な思想と一線を介し、有事の際の現実的な選択として、飛鳥時代の「白江村の戦」から太平洋戦争に至る日本が関わった国際戦争の歴史や、ロシア、中国など近隣諸国の歴史、地政学の観点から、豊富な資料に基づいて独自の視点で分析し、日本が生き残る道はアングロサクソン陣営、特に日米安保条約を機軸としたアメリカとの協調維持が最も有効な戦略であると結論づけている。
要するに「アメリカがいなくなって、日本をどうやって守っていけるの?自存自衛なんて今の日本でできるわけないでしょ。それが現実ですよ。」と言っているのである。
アングロサクソン主導のリベラルな民主主義思想に世界が収斂していくという予測に基づき、「勝ち馬に乗れ」という著者の発想は、「大国」ソ連が崩壊し、地政学的に緩衝地帯と見なしていた中国や北朝鮮が軍事大国として台頭し、アメリカはいつもの如く独善的なモラリズムをアフガンや中東に押し付けて国際非難を浴びている現在の情勢で同調するのはいささか安易かと思われるが、「日本が生き残る」ための思考ツールとして用いる限りにおいて本書の価値は高いと思う。
興味深い点として、著者は日本には戦略を考える「能力」がないのではなく、旧陸海軍が崩壊しそのような教育を行ってた機関がなくなってしまったことが原因だと述べている。伊藤博文や小村寿太郎のような戦略家を今に求めるのは酷かもしれないが、少なくとも国民レベルで自国の安全保障について意識を高める必要性があることを示唆している点で一読の価値はあると思う。

あえて今、読んでみる4
~かなり有名で、売れている本であるが、本書は冷戦時代に書かれている。にもかかわらず、昨今の著者の主張と本筋は変わらない。このことは著者が時代に乗り遅れている云々ではなく、「本筋」を見極めているからにほかならない。内容は歴史、地理、文化、経済、軍事あるいはテクノロジーと幅広い。建前と本音、感情論とスジ論、そして短期的視野と歴史的視野に~~立脚した考え方、これらの違いが分かりやすい文体で述べられている。著者は外交畑の実務者上がりであり、その経験が文章に強い説得力を持たせている。左派が一大勢力だった当時から、国際社会の複雑性を理解した上で、歴史的視野をもって現実を見据えることを主張してきた著者のすごさがわかる。
小手先の外交テクニックや流行りに乗っただけのアジテーショ~~ンが「戦略」と銘打たれて巷に溢れているが、そんなものに踊らされない「戦略的なものの考え方」に至るきっかけを与えてくれる良書として、あえて現代に読んでみる価値のある一冊だと思う。~