藪の中,好色 (新潮CD)
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商品の詳細
- Amazon.co.jp ランキング: #1096024 / 本
- 発売日: 2001-09
- 版型: 単行本
- 1 ページ
カスタマーレビュー
芥川の明と暗
ジャンルとしては「実験小説」の部類に入るのだろう。そしてその
「実験」はかなり成功している。複数の登場人物の視点と証言で事件
の全体像を浮びあがらせるという手法は、発表当時では相当前衛的で
刺激にとんだものだったとおもう。複数の視点で物語るというのは、
この作品のほかにはアメリカのフォークナーくらいなもので---もっと
も、ほかにもあるかもしれないが、知ってるのはそれだけ---、世界
文学史のレベルでも貴重な作品ではないか、とも考えられる。
と、ここまでは「明」の部分で、それに対応する「暗」の部分には、
作者が抱えていたであろう苦悩と精神の闇が、暗室の煙草の煙のように
渦まいている。
一般には、芥川は学校の教科書に取りあげられるような短編小説を
書きつづけた作家とおもわれている。もちろんそうなのだが、その一
方で、性的な題材を自身の創作になんとか盛りこみたいと苦心しつづ
けた作家でもある。それは、かなり諧謔的な要素の強い「河童」にし
てもそうであるし、創作上の行きづまりを強く感じさせる「或る阿呆の
生涯」にも暗示されている。セックスと暴力ばやりの小説がはん濫する
現在からすると、まったくおとなしいものだが、情事をあからさまに
描写できなかった前世紀初頭の小説としては、これが限度だったのだろう
(「レイプ」という言葉が、シェークスピアの戯曲のタイトルでしかお目
にかかれなかった時代ですわ)。
もうひとつは、「巫女の口を借りたる死霊」にことのてん末を語らせ
ていることだ。「河童」にも霊媒の話がでてくるが、これは意表をつく
手法で、この頃の作者が死後の世界に並々ならぬ関心を抱いていたこと
を黙示している。もっとも、アニメなどで巫女が結構出てくる昨今、芥川の
この「暗さ」は、意外に今日的なのかも知れない。

