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藪の中,好色 (新潮CD)

藪の中,好色 (新潮CD)
By 芥川 龍之介

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  • 発売日: 2001-09
  • 版型: 単行本
  • 1 ページ

カスタマーレビュー

芥川の明と暗4
 ジャンルとしては「実験小説」の部類に入るのだろう。そしてその

「実験」はかなり成功している。複数の登場人物の視点と証言で事件

の全体像を浮びあがらせるという手法は、発表当時では相当前衛的で

刺激にとんだものだったとおもう。複数の視点で物語るというのは、

この作品のほかにはアメリカのフォークナーくらいなもので---もっと

も、ほかにもあるかもしれないが、知ってるのはそれだけ---、世界

文学史のレベルでも貴重な作品ではないか、とも考えられる。

 と、ここまでは「明」の部分で、それに対応する「暗」の部分には、

作者が抱えていたであろう苦悩と精神の闇が、暗室の煙草の煙のように

渦まいている。

 一般には、芥川は学校の教科書に取りあげられるような短編小説を

書きつづけた作家とおもわれている。もちろんそうなのだが、その一

方で、性的な題材を自身の創作になんとか盛りこみたいと苦心しつづ

けた作家でもある。それは、かなり諧謔的な要素の強い「河童」にし

てもそうであるし、創作上の行きづまりを強く感じさせる「或る阿呆の

生涯」にも暗示されている。セックスと暴力ばやりの小説がはん濫する

現在からすると、まったくおとなしいものだが、情事をあからさまに

描写できなかった前世紀初頭の小説としては、これが限度だったのだろう

(「レイプ」という言葉が、シェークスピアの戯曲のタイトルでしかお目

にかかれなかった時代ですわ)。

 もうひとつは、「巫女の口を借りたる死霊」にことのてん末を語らせ

ていることだ。「河童」にも霊媒の話がでてくるが、これは意表をつく

手法で、この頃の作者が死後の世界に並々ならぬ関心を抱いていたこと

を黙示している。もっとも、アニメなどで巫女が結構出てくる昨今、芥川の

この「暗さ」は、意外に今日的なのかも知れない。