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小林秀雄全作品〈14〉無常という事

小林秀雄全作品〈14〉無常という事
By 小林 秀雄

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  • 発売日: 2003-11
  • 版型: 単行本
  • 266 ページ

エディターレビュー

内容(「MARC」データベースより)
小林秀雄の全作品を網羅し、計約730篇を発表年月順に配列した第6次小林秀雄全集。本文はすべて新字体・新かなづかい。全作品に、人名・書名・難語などを解説する脚注付き。第14巻は昭和16~20年の作品を収録。


カスタマーレビュー

戦中期の小林秀雄について5
 小林秀雄は、作品の印象や形式を云々せず、ひたすら「作品と向き合うこと」「作品を見ること」を語った人である。批評家は「名品との出会い」に打ちひしがれるしかできない、という達観の姿勢が、「世の中の無常な流れに抗うことはできない」、という日本人好みの無常観に重なる美文がこの作品集には収められている。なんだかんだ言って、僕は「無常という事」の前後に書かれた批評が、小林秀雄の文章の中では一番好きだ。

 さて、作品集「無常という事」にある文章は戦時下に緊迫する出版状況の下、彼が日本の古典に沈潜しながら書いたものだとされている。この事実だけ取り出すと、小林は戦時下思想統制の被害者のようだが、実際は逆で、彼自身は、人間にとって戦争とは災害のように避けられない運命として捉え、無常の流れとして第二次世界大戦を受け止めることを積極的に語った人でもあった。「戦争は正しいか正しくないかにかかわらず、やるからには勝たねばならない」という発言からは彼の無常観とリアリストぶりのバランスが見える。

 彼は真珠湾攻撃を告げるラジオ放送を聞き、「名人の至芸が突如として何の用意もない僕等の眼前に現はれた様なもの」として驚いて見せた。(「三つの放送」より。)彼の美学は「眼前のもの」を受け止め驚くしか人間はできない、というものだったが、そうやって彼が受け止めた太平洋戦争に日本が敗れるということこそが、「無常」であった。戦争末期に古典から「無常観」を語る彼なりの必然性が、そこにはあったのである。

 戦中の小林の態度を戦後民主主義の視点から揶揄することは容易いし、そういう視点の批評は今後も存在し続けなければならない。だが、この時期の小林の言論スタイルは、日本人の思考パターンの一つの典型である。彼を批判することで、簡単に整理したりやっつけたりできたとは思わない方が良い。吟味と鑑賞の対象として、この時期の小林の批評は今後も読み継がれるべきだろう。