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貧しき人びと (新潮文庫)

貧しき人びと (新潮文庫)
By ドストエフスキー

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  • 発売日: 1969-06
  • 版型: 文庫
  • 260 ページ

カスタマーレビュー

圧倒的な共感4
ドストエフスキーのデビュー作。後の大作群に比べると小品なのだが、彼の特徴はデビュー作から良く出ており、人間観察に基づく圧倒的な心理描写、庶民の視点に立った温かい思い遣り、そして何と言っても読者を物語に引き込む職人芸、これらが全て本作でも発揮されている。

物語自身は、下級官吏と下流層の若い女性の恋を主に書簡を通じて語るというもの。ロシア文学の伝統か、男側はやや高齢に設定してある。男は自分に自信がないため、書簡の中で饒舌となる。この饒舌性はドストエフスキーの一つの特徴であり、会話の中であれ、地の文であれ、作者の迸る心理描写は止まる所を知らない。作者自身も貧困のドン底で作品を書いているので、作者が主人公二人を初めとする貧しき登場人物達に同情の眼差しを向けるのは当然であろう。そして、作者の想いをそのまま読む者に伝える事ができる並外れた筆力が、またドストエフスキーの特徴である。更に、文学性を考えずに単なる通俗小説としても読める作品を生み出す力も驚嘆すべきものがある。本作はデビュー作でありながら、これらの特徴が全て出ているのである。

結末を安っぽいハッピー・エンドにしないのも作者らしい。本当に泣けてくるのである。これで、一番軽めの作品なのだから、ドストエフスキーは恐ろしい作家である。世界の最高峰の小説家がその持ち味を出し読む者の圧倒的共感を呼ぶデビュー作にして傑作。

マカール氏に共感4
私の初めてのドストエフスキー作品でした。
「罪と罰」が読むべき名著であることはわかっていましたが、なんとなくロシア文学というと小難しいイメージがあり、まずは薄い作品から読破してみようと思い本作を手にとりました。

本作は、マカール氏とワーレンカ嬢との間でやり取りされた書簡を交互に載せるという構成です。
マカール氏の手紙には、己の惨めな人生を卑下する文句がいくつも散りばめられています。
ここだけの話、私の人生もかなり惨めなものであるので、マカール氏は私の代弁者であると感じるとともに、それを小気味よくも感じました。

そんなマカール氏の言葉をいくつか抜粋します。

「ワーレンカ、私は無学な老人です。若いころに勉強をしなかったので、いまさら勉強をはじめたところで、なにも頭に入らないのです」(p.23)
「あの人の前に出れば、わたしなんか一文の値打ちもありません!ほんとに。あの人は有名な人なのに、このわたしは何でしょう?ただもう―存在しないも同然じゃないですか」(P.100)
「わたしなんか木偶坊のようなもので、われながら自分が恥ずかしくてしかたがないものですから」(P.101)
「自分をなにか意義のある人間のように考えるのは、とんでもないこのとのように思いました」(P.183)

この自己卑下っぷりが好きです。

さて、意外とドストエフスキーは読みやすい作家でありました。
そして、世間のものごとに対する洞察がとても鋭く、文章から得るものは多くありました。
私は、ボールペンで気に入ったところには線を引きながら本を読むのですが、本書は見返してみるとラインを多く引くことができました。

次は、「罪と罰」などの長編の作品を読破してみようと思いました。
きっと、そこからも得るものは多いことでしょう。

「ヒューマニズム」という言葉では説明しきれない4
大学に入ってはじめに買ったのがこの小説でした。すでに『罪と罰』を読み終えていたので、思想的な面での難しさを感じることはありませんでした。
ですが書簡形式で書かれたこの小説は、私にとって一度読んだだけではどこかピンと来ないもので、正直に言っていまいち良さがわかりませんでした。けれど、主要人物二人の置かれている環境や、作中で変化しつつある状況に留意して再読すると、すさまじいほどに心を動かされる小説だと気づきました。
「貧しさ」とはこれほどまでに辛いものでしょうか。現在を生きる私には、ここで書かれている描写をたとえ覚えきったとしても、真の意味での貧しさを知ったとは到底言いがたいです。実際に当時のロシア下層社会で生活してみないと無理でしょう。断片だけでも理解したと思いたいところです。

昨今、「勝ち組」という言葉に代表されるような、実務的、商業的な利点ばかりが叫ばれる風潮の中で、却って小説や映画などでは、現実に根ざしていない、精神性ばかりを重視し肉体や物質的側面を軽んじているものが流行っているように思えます。個人的には、息が詰まりそうなほどに余裕のなくなってきている社会への反発から生じた現象だと考えています。

しかし本作ははっきりと地に根ざしたものであり、そのため、この世の真理に対して一切、欺きたてることをしません。
「あなたがいれば他になにもいらない」「愛があれば大丈夫」「金で心は買えない」……このような言葉(流石にここまで陳腐には言われていないでしょうが)に代表されるような考えに、一石どころか巨大な岩を投じてくれます。

結局、衣服住という経済的な問題の前に、愛とか憐憫のような感情は屈服するものなのでしょうか。著者は『罪と罰』と同様に、明確な結論を与えていませんが、それは読者一人一人に課せられた問題だからなのでしょう。最終的な意見がどうなろうと、本作を読んで思索するのは決して無意味なことではないように思います。
近ごろ話題になった「お金で買えないものはない」という言葉がマスコミにより安易に否定された際に、どこか反発心を覚えた方、特にそういう人に手にとってほしいと思います。モデルとなった小説、ゴーゴリ『外套』と共に、いまなお少しも古びていない、根源的な問題を扱っている作品です。