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争いの樹の下で〈上〉 (新潮文庫)

争いの樹の下で〈上〉 (新潮文庫)
By 丸山 健二

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  • Amazon.co.jp ランキング: #390447 / 本
  • 発売日: 1999-01
  • 版型: 文庫
  • 400 ページ

エディターレビュー

内容(「BOOK」データベースより)
首吊り女が産んだ奇跡の子。齢千年の巨樹はその未来を見通した。親も家も名も持たぬ「おまえ」を待つ、腐臭を放つ二十一世紀の日本。「おまえ」は盗みをくりかえし、白毛の老猿が語る謎の詩集に導かれ、個の自由を求めて流れゆく。だが、猛火と爆発を逃れつづけた「おまえ」の姿が捉えられる瞬間はついにやってきた―。強烈なスリルと暴力的な興奮が横溢する新世紀への黙示録。


カスタマーレビュー

強靭な孤独者5
いつも思うんだけれど、こういうスタンスで文学に入ろうとする作者は、ほとんど皆無だ。
この人の生み出す作品は常に異質だ。そして、物凄く強い。

孤独とか、寂々とした人生とか、そういうものはわざわざ言葉にするまでもなく土台の土の下に埋まっている感じだ。そして、日本の文学者は大体においてその孤独感をそのまま物語にしようとしている。もちろん、それは全然質の良い物語だと思う。しかし今は自分の不満を他人に垂れ流しっぱなしの作品が多すぎる気がする。特殊な人生をいくらその作者が送ってきたとしても、そんなものを売りにされて切り売りされても困るのだ。こちとら、ワイドショーじゃねぇんだから。

『争いの樹の下で』は、強烈で怖い作品だ。でも、その怖さを自分以外の他者に垂れ流すような情けない作品じゃない。こんな怖い作品の責任を取れるんだから、丸山健二はすげぇ。この人のカマシっぷりにむかつく人もいるかと思いますが、それは筋違いでしょう。丸山健二の攻撃対象は常に他者ではありませんから。

気品・パワー・ボリューム、白鯨に劣らず。5
凄まじいの一言に尽きる。
文体が放つ圧倒的なパワーとボリュームと気品。そして音楽性。ストーリーの明確な哲学性。齢千年の老木が見初める〈流れゆく者〉と自由を堕落せしめる〈淀みゆく者〉との壮大な不協和音が圧倒的な緊張感を醸している。全篇から感じられる、マタイ受難曲的な血の滴るような名状しがたい雰囲気は、海がもはや自由と冒険の場ではなくなった現代においても「白鯨」に劣らぬ緊迫の世界を構築するに到った著者の力量の凄まじさを物語っている。
この作品の主人公の魂の色であり、老木の樹液の色である〈黒〉は、非自由と反自由に対する怨念の黒であり、己以外の誰にも染まらぬ黒であり、運命の先をゆく黒である。どこか白鯨に対するエイハブの魂を感じずにはいられないのは私だけではないだろう。
近年ではこうしたスタンスの丸山作品はなくなったが、思想の根底をなす部分に変化はない。だが自己を乗っ取ってしまうより強大な自己、それを否定するようになった。「銀の兜の夜」では「争いの樹の下で」の老木を思わせる兜を「詭弁を弄する輩」として主人公が廃棄する。このことの意味は何か。自己の内側から現れる、虚無的な怒りの化け物を己の理性で退治することにエイハブは失敗したが、丸山健二は永劫にして輝ける自由のために、真っ当でありながらも狂的な魂を拒否するのである。そこには目もくらむばかりの感動と喜悦が満ちている。