隠された十字架―法隆寺論 (新潮文庫)
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商品の詳細
- Amazon.co.jp ランキング: #33752 / 本
- 発売日: 1986-02
- 版型: 文庫
- 602 ページ
カスタマーレビュー
愛読者として
大変話題を集めた本で、わたしも大いに魅了されてきました。梅原氏の名はこの本によって一躍、知れ渡るようになり、ついには文化勲章まで…。しかし時間が経った今、大分ほころびが見えてきているようです。
わたしが気づいた範囲でも、美術史家の町田甲一氏が法隆寺夢殿の救世観音について梅原氏が普通考えられないような間違いをしていると指摘しています(『大和古寺巡歴』講談社学術文庫)。
また最近では建築家の武澤秀一氏が、中門の真ん中に立つ柱について梅原氏は全くの事実誤認をしていると指摘しています(『法隆寺の謎を解く』ちくま新書)。
これらの指摘は専門家によるきわめて具体的なもので、梅原説の根幹にかかわるポイントです。愛読者としてはぜひ著者の見解が知りたいところですし、既に読んだ方、これから読む方にはぜひ上記の本を併せて読んでいただきたいと思います。
怨霊説の現在は…?
30年ほど前に発表された梅原氏のこの法隆寺論は日本史、建築、美術史等々のジャンルを総動員して法隆寺の全体像に迫る試みであった。その結論は聖徳太子の怨霊が法隆寺に封じ込められているという、驚天動地のものであった。
同時にかれはみずからを哲学者と位置づけ、反論するなら揚げ足取りではなく、全体像をもって反論せよ、と表明していた。その言やよし、である。
多くの読者はかれの熱気に圧倒され、とくに当時の若者層は結論をそのまま信じこんでしまったようだ。学者間で評判は芳しくなかったが、正面切っての反論はなぜか回避されてきた(触らぬカミにタタリなしと、著者のパワーを恐れたか?)。かれの影響力は各界におよび、その結果、文化勲章という快(怪?)挙にまで至る。学者のふがいなさは今に始まったものではないが、この間、怨霊説は浸透し、いまなお信じている人も多い。
全体像を求めるかれの姿勢そのものは今も評価されようが久しぶりに再読し、思い込みに基く推論、それがあれよあれよという間に次々に断定に変わってゆく強引さが目についた。もちろん読者がその熱さをよしとし、酔うのは自由だ。しかし面白ければそれでいいというのでは思考停止、知の衰弱であり、著者も望まないはずだ。結論に関していえば、建築用材の伐採年など近年、明らかになったデータなどに照らしても、重大な疑問点があるのである。というか、そもそも論の出発点を疑う必要があり、再検討が求められる。
最近、梅原説に触発され、かつ氏とは別の角度から、全く新しい法隆寺の全体像が建築家によって打ち出された(武澤秀一『法隆寺の謎を解く』ちくま新書)。梅原説は“引き金”となることにより、この有力な新説の誕生に貢献している。十分に触媒の役割を果したのである。哲学者・梅原氏としても望んだところであるはずだ。併読されるようお勧めしたい。
哲学者の夢か
現在見る法隆寺が再建されたものであることは、明らかであるが、いつ、誰が、何のために再建したのか日本書紀は何も語らない。そこで謎が生まれる。
哲学の徒である梅原猛氏は、法隆寺『資財帳』の記録を見てデルフォイの神託を受けたが如く「聖徳太子の怨霊鎮魂仮説」が脳裏に閃めいた。その仮説によると、今まで謎とされてきた多くの事実が合理的に説明できることに気がついて本書が執筆された。
ソフィストに立ち向かうソクラテスの如く、氏の筆は勇猛果敢である。結構、厚い本にもかかわらず読者を引付けて止まず一気に読ませる。特に圧巻は夢殿の救世観音。「怨霊史観」によるおどろおどろしい世界が現出する。本書の初出は1970年代初め。古代史ファンを大いに増やした貢献を評価して星4つとした。
尚、他のレビュアーも触れているが、最近の知見を踏まえた武澤秀一著「法隆寺の謎を解く」を合わせて読むことをお勧めする。





