紀ノ川 (新潮文庫 (あ-5-1))
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商品の詳細
- Amazon.co.jp ランキング: #136344 / 本
- 発売日: 1964-06
- 版型: 文庫
- 357 ページ
カスタマーレビュー
作者の死が惜しまれる未完の小説
この物語にはとりたてて大きな起伏があるわけではありません。家と女という日本の伝統の流れに身を任せる母、激しく抵抗する娘、そしてその二人を止揚したかのような新世代の孫娘。この三代の血の流れと紀ノ川の流れとが重なるかのような風景の中で、日本の女の物語が静かに編まれています。
先行世代というものが若い世代の目にはある種の縛りをかけるとても窮屈な存在と映るでしょう。私も、先行世代が引き継いで後代に受け継がせようとする伝統のすべてを良しとはしませんが、一方で歴史の荒波にも屈することのない伝統が持つ凛とした静謐な美しさと強さのようなものが、年齢を重ねるうちにわかってきました。ちょうどこの主人公の娘・文緒が年齢を重ねるにつれて伝統に対する抵抗感をわずかながらに減じていったのに似ています。
それは、伝統が後代を縛るための道具ではなくて、後代が静かながらも幸せに生きられるようにという先行世代の、つまりは親の、愛情のこもった智恵であるからかもしれません。そのことに文緒自身もわずかに気づく兆しがあり、それがこの小説で展開される母娘の確執の中の救いといえます。
戦後の農地改革の中で姿を消していった伝統的な素封家の女たちの物語がこの後さらに昭和の御世の終わりから平成にかけてどのように展開されていったのか、と考えると興味は尽きません。しかし作者の早世によって四代目(孫娘である華子の娘)の物語は永遠に書かれることはありません。そのことがとても惜しまれる物語です。
女の幸せ
男に寄り沿い、家に寄り添う女。因習から抜け出し精神的自立を求める女。家制度からも解き放たれた代わりに莫大な自由の選択肢と敗戦による無の中に投げ出された女。
ここで興味深いのは、男に尽くし家の運命に従うという女の幸せもあるということ。戦前世代の文緒の気持ちはあれほど反発した「家」に戻っていくし、戦後世代の華子は、因習や親に強制されることなく自分の選択として「家」を愛するようになる。
この本を読んでいて不思議なのは、今の時代でもこういう風に家に寄り添って(男を支えて)生きていくのも幸せかも、とつい思わせられてしまうところ。現代では自分の仕事に目標や生きがいを見出しやすいのに、どうして家のこと、家庭生活には目標も生きがいも見出しにくいのだろう?
女性三世代
明治、大正、昭和の3つの時代を三世代の女性が美しくたくましく生き、成長していく様子が書かれている。実際に三つの時代を見てきたかのような錯覚になるほど、その時代の背景が事細かに書かれている。こんなにも時代は変わっていくのだと実感させられた。母が子を思う強い気持ち、子が親の大切さに気付きまた、その子に受け継がれていく、時代は紀ノ川の流れのように流れても、変わらぬ親子のつながりは、どの時代になっても大切だと教えてくれる。





