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サド侯爵夫人・わが友ヒットラー (新潮文庫)

サド侯爵夫人・わが友ヒットラー (新潮文庫)
By 三島 由紀夫

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  • 発売日: 1979-04
  • 版型: 文庫
  • 239 ページ

エディターレビュー

内容(「BOOK」データベースより)
獄に繋がれたサド侯爵を待ちつづけ、庇いつづけて老いた貞淑な妻ルネを突然離婚に駆りたてたものは何か?―悪徳の名を負うて天国の裏階段をのぼったサド侯爵を六人の女性に語らせ、人間性にひそむ不可思議な謎を描いた『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)。独裁政権誕生前夜の運命的な数日間を再現し、狂気と権力の構造を浮き彫りにした『わが友ヒットラー』。三島戯曲の代表作二編を収める。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
三島 由紀夫
1925‐1970。東京生まれ。本名、平岡公威。’47(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。’49年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、’54年『潮騒』(新潮社文学賞)、’56年『金閣寺』(読売文学賞)、’65年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。’70年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


カスタマーレビュー

18世紀フランス版熟年離婚。4
二十世紀の怪物サド侯爵とアドルフ・ヒトラーを題材にした戯曲二編を収録。

登場人物が女性のみの「サド侯爵夫人」は、逮捕・投獄を繰り返す夫サドにあくまで貞節を尽くしながら、老いた夫がついに自由の身になると知るや離婚してしまった夫人の心理に迫る。

かたや男性ばかりの「わが友ヒットラー」は、ヒットラーが政権を掌握する過程で行った、極右と極左を一掃する恐るべき粛清が語られる。

対照的な一対はそれぞれ「不可解な女」「単純な男」を様式的に描き出す。サド侯爵の”悪徳”に共感できるか否かに左右される「サド」よりは政治的謀略をテーマとした「ヒットラー」のほうが万人向きといえる。

美意識の人が能弁に解き明かす侯爵夫人の「不可解」な行動だが、今日の視点で見れば、定年まで顊??れ添った妻に突然離婚を言い渡される”熟年離婚”そのものではないか?かつての「不可解」はいまや珍しくもない現象になってしまったのだ。

戯曲のおもしろさを堪能できた5
作家であり劇作家でもあった三島由紀夫の代表的戯曲2篇を収録した作品。
戯曲なので、ト書きのほか場面を説明するものはないが、端整な台詞まわしによって、時々の情景が思い描けるほど表情豊かに表現されている。
三島自身が作品を書くに到った経緯や設定、場面に込めた意図などが細かに語られる巻末の「自作解題」を読むと、いかに3幕が周到に練られた構成でつくられているかよく解かる。
タイトルから過激な内容の作品のかと思っていたが、いい意味で予想を裏切る実におもしろい作品だった。特に、『わが友ヒットラー』のシニカルな落ちが実にいい。

時代を超え光芒を放つ〈昭和の名戯曲〉5
 05年秋に新妻聖子主演による「サド侯爵夫人」を観賞。〈昭和の名戯曲〉はフレッシュな感性を吹き込まれて新たな光芒を放ち、感動のクレッシェンドを胸に刻んだ。

 これは三島文学、美学のエッセンスを凝集したような傑作である。戦後最高の戯曲のひとつとされ、作品の舞台になっているフランスでは、三島の熱烈なファンだったというシュール系作家A・マンディアルグ(1909-1991)が華麗な仏語に翻訳。劇はフランス演劇の主要レパートリーとして定着するとともに、世界各国で上演され喝采を浴びている。

 渋澤龍彦著「サド侯爵の生涯」を典拠とした3幕物で、時代は18世紀・大革命前後。登場人物は主人公のサド侯爵夫人・ルネ、その母モントルイユ夫人をはじめ、知り合いの伯爵・男爵夫人ら女性ばかり6人。それぞれが〈貞淑〉、〈法・社会・道徳〉、〈肉欲〉、〈無節操〉などを代表する人物として位置づけられ、舞台に登場しない怪人物サドをめぐり、愛憎が絡んだ苛烈なせめぎ合いを繰り広げながら悪魔的なサドの素顔を浮かび上がらせる。

「セリフだけが舞台を支配し、イデエの衝突だけが劇を形作り……」と三島が説明するように、比喩、アイロニー、諧謔、エスプリなどをちりばめた壮麗な言葉、秘めやかな韻律が作品を貫流。その「デクラマシオン(朗唱術)」と呼ばれる詩的長ゼリフが絢爛たる美を構築するとともに、交響楽的な厳粛さを敷き詰め、緊迫感をかきたてている。圧巻は2幕目におけるルネとモントルイユ夫人の息詰る対決シーンだ。
 
 醜聞に包まれた放埓者のサドへ、憤怒と怨嗟をぶちまけるモントルイユ夫人。それに対し、気高く貞淑なルネは祈りにも似た熱い調子で、また深淵の吐息のように甘く煙る独白(モノローグ)で夫をひたすら擁護する……この親子の目くるめく駆け引き、情念の激しいぶつかり合いはまさにスリリング! 脚本を読むだけでその情景がありありと目に浮んでくる。ところが、3幕目でルネは全く違った様相を見せ、サドを冷たく突き放し、修道院に入る決意をする。彼女の心変わりの原因とは?……
 
 そのときの公演ではルネ役の新妻がものの見事に長ゼリフをこなし、きらりと輝いていた。共演者も文句なく、肉体化された言葉のオーケストレーションに酔いしれたのである。