東京奇譚集 (新潮文庫)
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商品の詳細
- Amazon.co.jp ランキング: #35583 / 本
- 発売日: 2007-11
- 版型: 文庫
- 246 ページ
エディターレビュー
内容(「BOOK」データベースより)
肉親の失踪、理不尽な死別、名前の忘却…。大切なものを突然に奪われた人々が、都会の片隅で迷い込んだのは、偶然と驚きにみちた世界だった。孤独なピアノ調律師の心に兆した微かな光の行方を追う「偶然の旅人」。サーファーの息子を喪くした母の人生を描く「ハナレイ・ベイ」など、見慣れた世界の一瞬の盲点にかき消えたものたちの不可思議な運命を辿る5つの物語。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
村上 春樹
1949(昭和24)年、京都府生れ。早稲田大学文学部卒業。’79年、『風の歌を聴け』でデビュー、群像新人文学賞受賞。主著に『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞受賞)、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)など。訳書も多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
カスタマーレビュー
マジカルな話のきらめき
話の静けさが、ひたひたと胸に満ちてくる味わい。五つの話それぞれの主人公の人生に訪れた不思議な出来事、不思議な縁が綴られていく短篇集。池に広がった波紋がすーっと消えていくみたいな文章の静謐感。心地よく浸ることができました。
「偶然の旅人」「ハナレイ・ベイ」「どこであれそれが見つかりそうな場所で」「日々移動する腎臓のかたちをした石」「品川猿」の五篇を収録。解決されずにいる問題や悩み、わだかまりを抱えた主人公が、奇妙な出来事に遭遇することで、人生の新たな一歩を踏み出していく。
なかでも、「日々移動する腎臓のかたちをした石」の話が面白かったな。語り手の小説家が出会う女性のキャラが魅力的だったこと、彼女の職業が予想外なものだったこと、タイトルの作中作が話に深みを添えていること。そうしたところに、マジカルな話のきらめきを感じました。
話の後味も、余韻があってよかったですね。不思議な体験をまるごと受け入れた後、それぞれの人生に向けて、再び歩き出していく主人公たち。それまで引きずっていた重石のようなものが、ふっと消えていたような気配。清々しい心持ちになりました。
ほのかに漂う再生の気配
村上春樹は、
深い悲しみや不条理に立ち尽くす人間の感情を、
日常が微妙に歪んでいき先にあらわれる非日常として描く。
本作はそういう点で、
村上春樹の典型的な短編小説であると思う。
ただちょっぴり作風が変わったような気がするのだ。
5つの短編が掲載されている。
ゲイであることをカミングアウトした結果、家族と孤立して暮らす調律師、
ハワイで鮫に襲われ息子を失った中年女性、
失踪した人間を捜す男、
謎の恋人は果たして「本当に意味がある女」なのかに悩む小説家、
名前を猿に奪われた若い女性。
主人公の背景は省略されているが、
全員、欠落を抱えて生きている。
いずも結末に再生に向けての希望がある。
それが従来の村上作品に比して、
異なる点だ。
主人公達は、
家族と和解し、
息子の死後の生活を受け入れ、
消えた恋人を「本当に意味がある女」だと受け入れる。
前向きだ。
希望に向けて立ち上がろうとする力強さ、
再生の気配が本作のバックボーンにあるように思う。
読むたびに違う味わい
村上春樹の小説としては文庫最新刊です(エッセイとしては「走ることについて語るときに僕の語ること」の方が新しいです)。村上春樹本人が前書きのような形で登場してから始める始まり方は、「回転木馬のデッドヒート」を思い出します。内容の方もそれに近く、奇妙な味わいのある話が五編納められています。
「偶然の旅人」「ハナレイ・ベイ」「どこであれそれが見つかりそうな場所で」「日々移動する腎臓のかたちをした石」「品川猿」という五つですが、前半四つはまったくのあり得ない話でもなく、さりとて日常的かといわれればもちろん違う、そういう不思議なバランスの上になりたった作品で、うまく伝わる人、伝わらない人が絶対に出てくるし、また体調によってもすんなりとそれが受け入れられるとき、受け入れられないときがある、そういう微妙な感じの作品集です。これは決して出来が悪いわけではなく、そういう趣きの話だと最初に村上春樹氏が断りを入れているので、こういうテイストを最初から狙っていると受け取るべきだと思われます。
例えば、偶然の旅人はとことんシンプルにいえば共時性を扱っているわけですが、これも人によっては「そういう事があるなぁ」「不思議なこともあるね」ととる人もいれば「だから?」と取る人がいるでしょう。続いての「ハナレイ・ベイ」も、息子の死の現場にやってきた母と、彼女が会う二人のサーファーからもちらされる情報を前に「それはありえる」という人もいれば「ありえない」という人もいるでしょうし、下手したら「何がいいたいの?」という人もいるでしょう。でも、そういう奇跡でもなければ単なる偶然よりやや上の不思議なうっすらと何かが伝わってくるラインというのが今回の村上春樹氏の狙いなのだとすれば、それは逆に大成功していると思います。
ただ、そのような書き方やラインは、ともすればエンターティナメント性や盛り上がりに欠ける部分もたしかにあり、自分もこれがハードカバーで出た時にはあんまり評価していなかったくらいです(今回読み直して、ぐっと迫る部分があって、同じ読者に対しても時期によって効果が違う短編集なんだと再認識しました)。だから一般受けするか、とか、村上春樹を初めて読む人にお勧めか? ときかれたらそういうのとは違うという作品だと思います。
これは、ときどき取り出して何かのおりに読んでみて(それもできれば一定年齢以上の人が)何か感じる本だと思います。だから、逆に若い世代でこれを読んでイマイチと感じた人もファンも、十年くらい寝かして読むとまた違った何かを届けてくれると思いますのでそれまで本棚に置いておいて欲しい本です。





