蜘蛛女のキス (集英社文庫)
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商品の詳細
- Amazon.co.jp ランキング: #54127 / 本
- 発売日: 1988-10
- 版型: 文庫
- 413 ページ
エディターレビュー
出版社/著者からの内容紹介
きみは蜘蛛女だね。男を糸でからめとる…。ブエノスアイレスの刑務所の中で生まれた、テロリストとホモセクシュアルの男との、妖しいまでに美しい愛、巧みな会話体で綴る衝撃の話題作。
内容(「BOOK」データベースより)
「触ってもいい?こんな風に触ってもいい?こうしても?あたしに撫でられて、気持悪くない?よかったら、あたしに好きなことしていいわよ…」ブエノスアイレスの刑務所の中で生まれた、テロリストとホモセクシュアルの、妖しいまでに美しい愛。アルゼンチンの作家、マヌエル・ブイグの野心作。映画化では、ウィリアム・ハートが、その名演技で〈アカデミー主演男優賞〉を受賞して、世界の話題をさらったものである。
カスタマーレビュー
甘美な夢の微妙な余韻
小説の舞台は、終盤十数頁を除き、政治犯と性犯罪者の二人が収容される監房。内容の大半は、シネフリークの性犯罪者が語る映画の世界である。
語られる6作の映画には実在するものも含まれるが、いわゆる”名画”はない。それらが囚人の言葉になると、珠玉の作品のように輝く。文章で読みながらも、文章表現であることが信じられないほどの像を結ぶ。閉ざされた監房に、異国の風、妙なる歌声、美しいロマンス、を運んでくる。二人の囚人たちの心理的距離も徐々に縮まり、束の間、重なったかと思われるが・・・。
一方、甘美な映画とは対照的に、小説の中でさえアルゼンチンの現実は甘くない。政治囚に対する当局の執念は凄まじい。それに伴う緊張感も並ではない。
結末のインパクトのために全てがある、といった類とは一線を画し、この作品には美しいディテールに加えて、一流のサスペンスがある。やるせなく重い「ハッピーエンドの夢」は、作者の人間理解を示すようだ。人と人とがわかり合うとは、錯覚なのか、奇跡なのか。夢は余韻を残す。
対比と交差
バレンティンの、革命で世界を変えるという滅私的理想と男性性、そしてモリーナの極私的夢想と女性性は、対比的な位置に置かれながら徐々に交わり、溶け合う。
物理的に閉じられた世界で。語られる映画や過去という、精神的な世界で。言葉と体を伝って。
そのコントラスト、交差し溶け合った糸がお互いの色を交えながらまた二つに分かれて行く様を、会話で…!?いや寧ろ、会話でなければならなかったか?
淡々と語られ、当然というように静かに終わるが、読んでるこっちも蜘蛛の糸に絡め取られて、なかなか抜け出せないのよね…。
年齢設定からしてリアルなゲイの話が、ここまで幻想的に美しく響くとはなあ。静かなのに全然飽きないし。
静かなる名作の求心力、凄いですな。
ふたりの愛
マヌエル・プイグは映画監督になりたかったらしい。
ぼくはセルロイドのフィルムになりたかった
とプイグが述べていたと後書きに書いてあった。
セルロイドのフィルム…体感として映画を捉える…介在するものなしのストレートな感覚で吸収し投影する--それがプイグの願望だったのかもしれない。
その映画への渇望が、この『蜘蛛女のキス』という実験的な小説に結実しているように思う。
会話、手紙、報告書、脚注
暗夜にストロボ撮影したような記憶の断片のコラージュ--そんなものからこの小説は成り立っている。
バレンティンとモリーナ ふたりの会話からこのストーリーは始まる。
映画フリークのモリーナは映画のストーリーをバレンティンに話して聞かせている。
ヒロインのドレスの細部にわたるまで細かな説明がされて、読者は何がなんだかわからないまま、その映画の内容に引き込まれていくのだが、どうやら、そのふたりがいるのは牢獄であり、ふたりは何らかの犯罪者であるらしい。しかも、モニーナのほうは女言葉を話している…ゲイなのだ。
延々と続くふたりの会話と、まるで千夜一夜のシェヘラザードのようなモニーナの映画語り--いつしかモニーナの語る映画のストーリーの方が現実味を帯び、バレンティンとモニーナの存在はぼーっと光ながら漂う魂のようなイメージとわたしの中で変わった。
政治犯で大荘園主の息子であるバレンティンはモニーナに言う--搾取されるな だれもお前から搾取することを許してはいけない
しかし、モニーナから多くを搾取したのはだれあろうバレンティン自身ではなかったのか…
幸福は瞬間でしかない。永遠に続くものなどないのだから、その瞬間を忘れずに生きなければならない、それを忘れてはならない…そんなこともバレンティンは言う。けれども、ふたりの間に瞬間生まれた愛をモニーナは忘れることはなかった。
獄中で生まれる男ふたりの間の愛。ふたりの会話を追いながら読者は当然のようにその愛を受け容れることができる。いや、きっとできると思う。それは『愛』だから。カテゴライズするのがナンセンスな『愛』そのものであるからだ。





