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あやめ 鰈 ひかがみ (講談社文庫)

あやめ 鰈 ひかがみ (講談社文庫)
By 松浦 寿輝

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  • 発売日: 2008-10-15
  • 版型: 文庫
  • 246 ページ

エディターレビュー

内容(「BOOK」データベースより)
冥界への入り口に咲くというあやめの名を持つスナックで同級生との再会を待ち望む男。酒宴のために仕入れた鰈を詰めたアイスボックスを抱えたまま地下鉄から降りることのできない男。横たわる妹のひかがみに触れた手が噛み千切られる妄念に陶然となる男。妖しく絡み合う三つの物語。木山捷平文学賞受賞作。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
松浦 寿輝
1954年東京生まれ。小説家、詩人、映画批評家。現在は東京大学大学院総合文化研究科教授。’96年『折口信夫論』で三島賞、2000年「花腐し」で芥川賞、’05年『あやめ 鰈 ひかがみ』で木山捷平文学賞、『半島』で読売文学賞をそれぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


カスタマーレビュー

昏い、陰鬱、蟲惑的5
だいぶ昔に読んだ『花腐し』以来、2冊目の松浦寿輝。

『花腐し』と印象がかぶった。どう形容すればいいんだろう、きわめて「非現代的」というか、60年代・70年代の「純文学」を読んでいる感覚。

読ませる。
好きか嫌いかと言えば、ものすごく好き。

けれど、途方もなく滅入る。
読んでいるだけで身体にも精神にもものすごく悪い影響を受ける感じがする。部分部分、悪い方向に共振しすぎてしまって怖い。この人の本をたくさん読んだら、間違いなく寿命が縮みそう。

でもどこか人をひきつけずにおかない。

精神状態の悪いときにはおススメしない。

人が死ぬ前に見る“夢”5
 これは人が死ぬ前に見る“夢”である。「あやめ」「鰈」「ひかがみ」は独立した小説だが、同じ夢の世界の話である。三作の主人公はそれぞれ別の男だが、いずれも年の瀬が舞台となっている。クリスマスも過ぎ大晦日までの4、5日間というのは日常でも祝祭でもない妙に中途半端な時期であり、異界への扉がパックリ開いているのかもしれない。一年の終わり=人生の終わりという暗示でもあるのだろう。
 死ぬ前に見る“夢”はきっと恐ろしい。日頃自分の中でごまかしてきた、無いものにしてきたことが、夢の中で追いかけてくる。自分という人間が実はどういう存在として見られていたのかという聞きたくもない話を昔の知人が教えてくれる。三作共通のモチーフや、一作の中でも同じシーケンスが悪夢のごとく繰り返される。「あやめ」だけを読んだ時は、小説の意図が判らず、自意識が変な形で欠落した主人公に共感が持てなかったのだが、夢だと解釈すれば、痛みや恐れ、逡巡のない感覚、意識、行動も理解できる。この三作の救いは、こうした悪夢、死ぬ前に見る“夢”の世界に迷い込み、別の人生もあったという後悔の念に苛まれつつも、不思議な幸福感に包まれ、希望を予感させて終わることである。ペダンティックな記述やディテールの不自然さが気になる部分もあるが、それはこの圧倒的な小説世界に比べれば瑣末なことだろう。