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海霧〈上〉 (講談社文庫)

海霧〈上〉 (講談社文庫)
By 原田 康子

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  • 発売日: 2005-10
  • 版型: 文庫
  • 443 ページ

エディターレビュー

内容(「BOOK」データベースより)
幕末の佐賀に生まれた幸吉は、米問屋に奉公に出るが、「新しい時代の産物」石炭に魅せられ、坑夫となってエゾ地へと渡る。広大な未開の地にあって、己の力と才覚で新しい人生を切り開いていくのだった…。幕末から明治、昭和へと、激動の時代をひたむきに生きた著者の血族を描いた物語。吉川英治文学賞受賞。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
原田 康子
1928年東京生まれ。2歳の時釧路に移り住む。釧路市立高等女学校卒業。東北海道新聞社の記者となる。’56年同人誌「北海文学」に発表後、東都書房から出版された長篇小説『挽歌』(女流文学者賞受賞)はベストセラーとなり、さらに映画化されブームとなった。主な著書に『蝋涙』(’99年女流文学賞受賞)『聖母の鏡』などがある。『海霧』で第37回吉川英治文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


カスタマーレビュー

名作を予感させる大河ドラマの幕開け4
 本書は、400ページ以上もある文庫。しかも上、中、下3冊のうちの1冊目。

 長編を読む楽しみのひとつは、作者が主人公の人格をこつこつ作りあげる過程をいっしょに楽しむことです。
 ロマン・ローランの『ジャン・クリストフ』もそうでした。あの情熱のかたまりのような主人公を造形するために、ロマン・ローランが、3巻も4巻もページを重ねたことを思い出します。

 本書の主人公である幸吉は、幕末の佐賀に生まれます。米問屋に奉公しながら算術を身につけ、石炭を掘る鉱山でたくましい体を作りました。石炭という新しい時代の産物にほれ込んだ幸吉は、広大なエゾ地へ渡り、明治を迎えるまでのわずかな期間、オソツナイの炭鉱で働きます。
 佐賀でお世話になった奉公先を頼っていったん函館にもどった幸吉は、道東の漁場で商売をはじめる商店の責任者となることを乞われ、ふたたび辺境の地、久寿里(クスリ)へ赴きました。

 近隣から頼られるたくましい青年となった幸吉は、恋女房との新婚生活を送りながら、いずれ独立する道を志向します。石炭への思いがつのる幸吉は、この先どんな人生を送ろうとするのか……。

 裏表紙に「幕末から明治、昭和へと、激動の時代をひたむきに生きた著者の血族を描いた物語」とあります。著者の原田康子氏はことし80歳ですので、主人公のモデルは著者の祖父か曾祖父にあたるのでしょう。
 私は北海道の開拓地に育ちましたので、「広大な未開の地にあって、己の力と才覚で新しい人生を切り開いていく」という物語に強くひかれます。

 明治初期の厳寒の地を舞台にしており、やや暗い雰囲気を漂わせていますが、淡々と進む物語と、一人ひとりの人物の描写の的確さは、決して読者を飽きさせません。

 吉川英治文学賞受賞というお墨付きです。
 きっと、中と下も、読み応えのある内容にちがいありません。

読後感がよい4
著者の作品で1番好きなのは「サビタの記憶」。初期の作品はみずみずしさに溢れていた。
その後、何十年かを経た本書では、人生のある一瞬ではなく、その人の人生すべてを著者は描くようになった。
この作品は釧路で苦労しながらも生きていく人間たちを描いて、感動に導く作品。手法としては宮本輝に似ている。
読後感がよいのは、かなりな部分、性善説に基づいていることだろうか。
多くの人物が出てくるので、細切れに読む人は人間関係をメモしながら読むと混乱は避けることができます。

女性作家の目が冴える5
幕末、明治、大正、昭和と生きた人びとの物語といえば、ドラマチックでおもしろいに違いありません。それが、女性作家の目で描かれるとまた違った面白さを醸すのです。

この物語は、作者原田康子の実家の歴史がモデルとなっているのだそうです。先祖の地、佐賀県にまで通って資料を調べたりして出来たこの物語は、「挽歌」からつづいてきた原田文学の流れを決定的に大きく変えました。しかし、その流れは、彼女の死(2009年10月20日)によって永遠に終わることとなってしまいました。

女性作家の目で描かれたこの小説には、衣装のこと、料理のことなどが詳細に描かれます。主人公は、始めが幸吉で後半は連れ合いのさよという感じで描かれますが、実はさよと娘と孫娘たちなのかも知れません。女性作家の目が冴えている物語です。

さらに、北海道に根を下ろして活躍した作家らしく、北の大地の物語でもあります。