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一瞬の光 (角川文庫)

一瞬の光 (角川文庫)
By 白石 一文

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  • 発売日: 2003-08
  • 版型: 文庫
  • 589 ページ

エディターレビュー

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   橋田浩介は一流企業に勤めるエリートサラリーマン。38歳という異例の若さで人事課長に抜擢され、社長派の中核として忙しい毎日を送っていた。そんなある日、彼はトラウマを抱えた短大生の香折と出会い、その陰うつな過去と傷ついた魂に心を動かされ、彼女から目が離せなくなる。派閥間の争いや陰謀、信じていた人の裏切りですべてを失う中、浩介は香折の中に家族や恋人を超えた愛の形を見出していく。

   著者はデビュー作である本書で、「人は何のために生きるのか」「人を愛するとはどういうことか」という大きな問題に取り組んでいる。観念的になりがちなテーマを軸にしながらも、背景となる企業社会を残酷なまでにリアルに描くことで、地に足着いた存在感のある物語を作り上げた。無慈悲な現実の渦に見え隠れする感動、生きる喜び。そうした一瞬の光を求めてがむしゃらに生きる一人の男の姿が、そこにはある。

   ロングセラーになった『僕の中の壊れていない部分』(2002年刊)に比べると、性描写が粗く、文体もまだ定まっていない感がある。古風な女性観にもやはり疑問は残った。だが本書の魅力はそういった批判を超えたところ、懸命に生きる人間の輝きをすくい上げようという、作品に込められた熱い思いにあるのだ。終始冷静で理知的な浩介が本当の気持ちを叫ぶ場面、著者の思いがページからあふれ出し、読み手は心を打たれるだろう。(小尾慶一)

出版社/著者からの内容紹介
期待の新鋭、衝撃のデビュー作、待望の文庫化!

38歳の若さで日本を代表する企業の人事課長に抜擢されたエリートサラリーマンと、暗い過去を背負う短大生。二人が出会って生まれた刹那的な非日常世界を描いた感動の物語。

内容(「BOOK」データベースより)
三十八歳という若さで日本を代表する企業の人事課長に抜擢されたエリート・橋田浩介。彼は、男に絡まれていたところを助けたことがきっかけで、短大生・中平香折と知り合う。社内での派閥抗争に翻弄されるなか、橋田にとって彼女の存在は日増しに大きくなっていった。橋田は、香折との交流を通じて、これまでの自分の存在意義に疑問を感じ、本当に大切なことを見いだしていくのだった…。―混沌とした現代社会の中で真に必要とされるものは何かを問う、新たなる物語。各紙誌書評で絶賛と感動の声を集めた気鋭のデビュー作、待望の文庫化。


カスタマーレビュー

切なく、辛い、愛の話。5
出世街道を否応無く進んでいく男と、幼いころに受けた虐待の経験により
人を愛することができない女性の微妙な関係を描いている話。
親の愛を受けずに育った人間にとって、人を信じて愛するということがいかに難しいか。
“依存”と“愛”は違うし、そういう人を相手に信頼や愛情を伝えることはとても難しい。
裏切られたり捨てられたりするのが怖いから、先に裏切る、捨てるという行為を繰り返す女性を、下心無しで支える男。
でも女性は繰り返し、繰り返し、相手の心を試す。
それでも男が傷ついたときに心を寄り添わせて支えるのは、自分の恋人ではなくてその彼女で。
本当の信頼とか愛情を成立さたときにはもう、遅い…。
なんだか非常に切ない話しでした。

虐待を受けた人の話というのは、結構色々読んできたけれど、本当に難しいし、痛々しい。
本当に愛情を与えてほしかった人間(親)から与えられなかった人は、
「自分は愛される価値の無い人間だ」と思って育つ人が多い。
そのため、他人から向けられる愛情を上手く受けとめられないのだという。
だから、傷つけられる前にわざと相手を傷つけたり試したりして、
自分からどんどん孤独に向かっていく。
孤独の中に居れば、人から裏切られることはないから、と。

この小説は虐待の過程を書いているわけではなく、次第に虐待の様子が明らかになってくるもので、
その分、「過去はどうにもしてやれない」という辛さが伝わってきます。
とても、とてもナイーブで難しいことなのだけれど、
でも、そういう人にとっての『光』になる人間は必ずいる、と信じたくなる話。

デビュー作とは思えない完成度5
人物造型や状況設定などの面でやや違和感を覚えるところもあったが、第一級の現代小説であると思う。(橋田浩介がどうしてそこまで中平香折に惹かれたのか、個人的には本書の内面描写だけではどうもしっくりこなかったことを正直に告白しておく。なお、会社人事をめぐる橋田の行動に関する部分は、そのプロットや描写も含め、実に読み応えあり。)

それにしても、仮に当方が橋田であったら、「私、浩介さんのおもちゃだもん」(文庫版524頁)と云い、「もう、浩介さんにお料理作ってあげられないんだね」(同574頁)と告げて去っていった瑠衣の抜群の肉体を手放すはずはないだろうなと思うこと頻り。

なお、文中のウィリアム・ジェイムズ『宗教的経験の諸相』からの一文(同453頁)は、心に残る至言。「なにか大事が起きたとき、人は自問自答して、多くの人は“誰かがことにあたるだろう”と考えるが、稀には“なぜ自分がことにあたらないでおられよう”と考える人がいる。この両者のあいだに、人類の道徳的進化の全過程がある。」

男の願望を詰め込みすぎてイライラさせられる1
話の展開そのものは面白く、長編だが一気に読めた。
しかし主人公が「男の目線による男の理想」を投影したような人物で、全く現実味に欠ける。

高学歴・一流企業で若くして出世・外見も良くてケンカも強い、そのうえこれまた超美人のご令嬢で料理が上手で尽くすタイプの彼女がいて、さらにひどいことにそんな完璧すぎる(いや、完璧であるからこそ男はそういうのに耐えられないのだろう)彼女をさんざん弄んで、苦悩のうえとはいえ結局は傷だらけの捨て猫のような女を選ぶ。当然だろう、男はたいてい弱い女を守るナイト(騎士)になりたがるのだから。

ひたすら出世街道を歩んできて、ふと立ち止まり今までの行き方に疑問を持つようになり思い悩む主人公の心理描写はとても良いが、どうにも「かっこつけすぎ」が最後まで鼻につく。

この話がそれなりに高評価なのは、このように金も社会的地位も手に入れたからこそ可能な、自分をひたすら頼ってくる女性を、振り回されつつも救ってあげたい!といった願望を持っている男性が少なからずいるという背景があるのかなという気がした。