白鯨 上 (岩波文庫)
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商品の詳細
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- 発売日: 2004-08-19
- 版型: 文庫
- 493 ページ
エディターレビュー
内容(「BOOK」データベースより)
「モービィ・ディック」と呼ばれる巨大な白い鯨をめぐって繰り広げられる、メルヴィル(一八一九‐一八九一)の最高傑作。海洋冒険小説の枠組みに納まりきらない法外なスケールと独自のスタイルを誇る、象徴性に満ちた「知的ごった煮」。新訳。
カスタマーレビュー
人間と自然との大叙事詩
「白鯨」という作品は、鯨という題で語られる人間と自然との大叙事詩だと思いました。
上巻では、主人公イシュメイルが捕鯨船に乗るためにナンタケットという港町へ行き、未開人のクィークェッグに出会ってピークォド号に乗利込み、ともに捕鯨へと出発するところが語られていきます。
エイハブ船長は、捕鯨船の出発後に登場して、商業捕鯨という使命を省みず、自身の復讐のために白鯨のモウビ・ディクを追いかけることを乗組員に明かします。ここから、読者は、エイハブという不気味な水先案内人によって、深い航海へと導かれていくのです。
主人公イシュメイルの口を借りながらメルヴィルが語る未開人クィークェッグの姿には、文明社会と未開社会の両方への暖かい目が注がれているように感じられます。二人の交流は心温まるものです。むしろ、二人が代表する人間世界同士の対比を越えて、人間と自然との関係が浮かび上がって来るようです。
その二人の後に登場するエイハブは、人間と自然を含んだ全世界をつつむ運命との対峙という構図を提示しているように思います。
上巻の中では、九章の「説教」の描写が特に秀逸です。
これは、港町の教会でマプル神父が説教する場面です。教会は船、神父は船長、信者は乗組員に擬せられて、鯨に関係する聖書の一節が語られていきます。マプル神父の説教は、嵐の中で号令する船長のような威厳を持って、読む者の心の中に力強い言葉を響かせます。
メルヴィル自身の古典文学への深い造詣と文体、それに古い漢字を多用した翻訳とが合っているように思います。各章のほとんどに版画の挿絵が挿入されており、荒削りな版画の描写が厳しい海の世界の印象を強くしてくれます。
訳がちょっと・・・
言わずと知れた名著ですが・・かなり肝心なところに誤訳がある。日本語として意味不明の文章もある。ある箇所で、こんな風に本当にメルヴィルは(あるものを)捉えていたんだろうか、と、訳本から非常に疑問に感じて原文にあたってみた折、誤訳に気づいた次第ですが・・・。とうとう新潮社の訳に切り替えました。あちらのほうでは、こちらで見つけた肝心の場所の誤訳がなく(ご名訳)、切り替える価値があると判断しました。意味不明のところもこちらでは今のところないです。・・・ということで、つたない素人の評価で恐縮ですが、名著は特に正確な訳、読みやすい物で読みたいであります。
Worldwide Literature Work
鯨学に関する章が作品の四分の一を占める為、この作品は上・中・下巻を通して一周(通読)するのが、中々に厄介だとは思いますが、一度目の苦痛の旅を周り終え、全体の流れを把握すると、二度目、三度目、四度目……以降は、とても楽しく充実した旅に変貌します。ですから、途中で挫折し本を放り投げたり、物語展開がある場面だけ読んで読んだ気にならずに、是非とも一度全体をしっかりと読み通されることを望みます。この長い話の中でメルヴィルが何を言わんとし、暗示せんとしているのかは、一度目の荒旅を終えた二度目以降の旅路から、冷静に、客観的に、そして情熱的に判断出来てくるからです。そしてそれは、とてつもなく深く魅力的なものです。
この作品には、国や時代を超越した様々な普遍的真理を訴えかけられます。例えば、メルヴィルはイシュメールの語りを通して、捕鯨業という陸の貴婦人から汚いと蔑まれる職業に対する偏見を否定し、寧ろそういった蔑まれる職業の人たちの御蔭で、陸の優雅な文明は成立し存続しているのだ、という逆説的真理を提示します。無論これは、メルヴィルが実際に捕鯨業を乗組員として体験したが故に説得力を持つ発言であり、現代の如何なる文明国においても普遍的な真理であることは間違いありません。
そして、特にエイハブの発言や思考を通して、形而上学的な抽象論が全体に渡り指し示されますが、ナンタケットから出発して太平洋まで、ピークオッド号の壮大な旅路を通し、移動距離的にも思想的にも、宇宙規模の壮大さないし深淵さを、読者は感ずることが出来ます。さらに運命に関する描写も作品通しで提示されますが、安直な理解でなく、旧約的カルヴィニズムにおける予定説の概念をしっかりと把握しておくと、この物語の結末における意味合いが理解出来るに到ります。
その他、船内の船員における上下関係の構図の描写は、例えば会社内のそれと同義なものとして捉えられ、深く納得することが出来ます。あとは、一見すると平和で静謐なる状態こそが、実は既に嵐を孕んでいる状態であるので、常に最たる危険な状態でもあるのだ、という描写にも、メルヴィルの観察眼の鋭さを感ずることが出来ます。つまり本書は、実社会的な問題がリアルに提起され、さらには宗教ないし哲学的真理が考究された作品であり、二重の意味での解釈が可能、というか必要とされる作品なのです。
それと、この物語は、ユングの言う「神話的原型」、すなわち人物描写が限りなく抽象的に現わされた作品であるように思えますが、それでも、イシュメール、エイハブ、スターバック、スタッブ、フラスク、クイークェグ、タシュテーゴ、そしてピップらと航海を続けるうち、彼らそれぞれの個性が把握出来、読了後には魂の友となることが出来ます。その中で、具体的に白鯨やエイハブが何を象徴して描かれているのか、自分の頭と感情で捉えてみるのが良いと思います。結果として、私には私なりの答えが出ました。ここでは書きませんが。フフフ。
いずれにせよ、アメリカ文学史上最高の作家による、アメリカ文学史上最高の小説です。メルヴィルは、ドストエフスキーやトルストイにすら比肩する、文学に対する意志と情熱を備えた大作家です。





